だから政治家たちは「農村」に迎合する

このように、複数区は都市的な都道府県、1人区は農村的な県という色分けが明確なのが、参院選挙区の特徴である。そして、自民党は後者に強い支持基盤を持ち、得票率も高い。そのため自民党は、支持基盤の厚い1人区では「勝者総取り」で独占的に議席を獲得し、より苦手な都市部の複数区では比例的に議席を獲得することになる。逆に言えば、対抗する野党は苦手な選挙区では議席をほとんど獲得できず、得意な選挙区では議席を独占できずに一定程度自民党に譲る形になるのである。

つまり参院選挙区は、農村部に強い地盤をもつ自民党と、主に都市部の有権者から支持を受けてきた野党勢力に対し、非対称的な選挙結果をもたらす。農村部の小県が1人区、都市部の都道府県が複数区という参院選挙区は、自民党にとって極めて有利な選挙制度だといえる。

この問題は単に自民党に有利だということに留まらない。自民党が1人区で独占的に議席を獲得していれば、自民党内における1人区選出議員の割合も高くなる。これは、自民党の長期政権を通じて、農村の「声」が本来の人口を大きく超えて政策に反映されてきたことを意味するものなのである。

図は、参院選における、(1)日本全体に占める1人区の有権者人口割合、(2)選挙区選出議員に占める1人区選出の議員割合、(3)選挙区選出自民党議員に占める1人区選出議員割合の推移を示している。(1)が本来の1人区有権者の「声」の大きさだとすれば、(2)は1票の格差の存在(定数不均衡)により拡大された「声」の大きさを示す。そして(3)は、選挙制度の歪みにより自民党内で拡大され、政権の政策に反映される農村の「声」の大きさを示す。

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農村部の「声」が拡大している

この図を見れば、本来、全有権者の中で3割前後しか占めていない1人区が、定数不均衡によって5ポイント以上その「声」の大きさを拡大させていることがわかる。そのうえで、選挙区選出の自民党議員の中では、1人区割合が5割前後に到達している。今回の選挙で言えば、有権者では37.0%だった1人区の声が定数不均衡で43.8%に、自民党内では56.8%にまで達していることになる。このような「農村バイアス」が、長期にわたる自民党政権を通じ、日本政府の政策に反映され続けてきたわけである(※2)