等身大の自分に自信を持つこと

手書きの文字には人柄が表れるが、メールにはそれがないから気持ちが伝わらないと懸念する人がいるが、そんなことはないと私は思う。「文は人なり」というように、ツイッターだって同じ人のツイートを20も読んだら、おおよそどんな人かわかるもの。メールも同じで、きちんとした内容を、誤字脱字がない正しい日本語で丁寧に書けば、「この人はしっかりした人だ」ということは伝わるのではないか。

手紙でもメールでもいちばん大事にしているのは「言文一致」。つまり、日ごろ家族や友人と話をしているのと同じように書くことだ。本屋に行くと「ビジネスレターの書き方」のような本がたくさん並んでいるので、難しいルールを覚えないと書けないように思いがちだが、そんなことはない。受け取るほうも、ふだんは普通に話しているのに手紙になると突然「益々ご清祥のこと~」では、「いったい彼はどうしたのか」と戸惑ってしまうだろう。

もうひとつ気をつけなければならないのは、「言行一致」であるということだ。とりわけ手紙になると、自分を大きく見せようと、格好をつけて心にもないことを書く人がいるが、たとえそのときはそれでうまくいっても、時間がたてばどうせ人となりはわかってしまう。ならば、最初から等身大で書いたほうがいいのではないか。

自分に自信がないから、つい背伸びをしてしまうという人もいるだろう。でも、それまで歩んできた人生の結果がいまの自分であり、当然短所もあれば長所もある。そこに優劣をつけるのはばかげている。トランプのポーカーと同じで、手持ちのカードは変えられない。自分に自信を持って、ありのままでゲームに挑むしかないのだ。

(左)愛用のウォーターマン万年筆(本文参照)でしたためた礼状の前半部分。このあとポストカードの下半分を埋めて、封書として投函する。裏を返すとライフネット生命のロゴが入っている。(右)写真は、創業1周年のときに全社員一人ひとりに向けて出口氏が書いたメッセージカード。

ライフネット生命保険会長兼CEO 出口治明
1948年、三重県生まれ。京都大学法学部を卒業後、日本生命保険に入社。国際業務部長などを経て2005年に退職。06年、現在のライフネット生命保険を設立、社長就任。13年から現職。
(山口雅之=構成 的野弘路、田中宏幸(メッセージカード)=撮影)
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