日本のエネルギー戦略を左右しかねないほどの打診であったが、外務省は無視し続ける。これは稀に見る失態だ。この情報を聞きつけた経産省の若手がカザフに飛び、カザフ政府の意向を当時の資源エネルギー庁長官、望月晴文(現・事務次官)に連絡した。望月は即座に甘利に報告し、甘利の即断を仰ぎ電力、関係企業に根回した結果、今回の国策の大ミッションとなったのである。

ところが、思わぬところから綻びが出る。予定していたカザフ訪問の期間中がカザフの国家的な祭日と重なり、カザフの大統領が面会できないと伝えてきたのだ。頭を抱えたのは望月だった。大臣の日程ばかりか、日本を代表する企業の幹部らの日程をすでに確定させた今、日程の組み直しなどできるわけもなかった。

カザフに残していた若手官僚に、

「万が一(大統領と)面会できなかったら俺は辞表を出す」

望月にとっては覚悟のカザフ訪問であった。カザフで彼らを迎えた若手官僚もすでに辞表を書く用意をしていた。

結局、若手官僚の必死の説得が功を奏し、大統領との面会は実現し、カザフ国営原子力会社「カザトムプロム」とウランの供給・調達計画で合意に至った。

東芝はウラン鉱山開発プロジェクトの出資、また「カザトムプロム」にWHの株式の一部を譲渡、戦略的パートナーとしての関係を築きあげた。

京浜事業所で製造される蒸気タービン。米国市場で圧倒的な強さを誇る。

WHの“ナショナルフラッグ”としての重み、信用、ブランド力はある意味、西田ら東芝首脳の想定を超えていた。

東芝電力システム社社長、五十嵐安治によれば、中国で受注した原子力発電所はWHの持つ、米国というナショナルフラッグの力だったという。全世界14カ国、34カ所の拠点を持つWH。その国、地域で養ってきたノウハウ、信頼は絶大のようだ。

「グローバルなマーケットに出ていかなければ東芝は生き残れない、とする西田さんの慧眼。世界の流れの中から真理を掴み取る力が今の東芝の原子力ビジネスを動かしている」

五十嵐の頭の中には2015年、WHとの売上高1兆円の数字がはっきりと見え始めている。

(鶴田孝介、永井 浩=撮影)