その一例として、首都圏で約100店舗の「名代 富士そば」を展開するダイタングループが挙げられる。同社では初め、女性向けに新業態の開発を検討していたが、経営幹部がフューチャーマッピングを描くなかで、それは正解ではないという結論に至る。その代わりに出てきたのが「創業者への恩返し」というコンセプト。つまり、「創業者によろこんでもらう」という利他の発想だ。「富士そば」創業時のチャレンジ精神を振り返り、そのDNAを未来へ引き継いでいこうと決め、渋谷の並木橋に新業態「つけ蕎麦たったん」をオープンしたところ話題となる。翌年にはインドネシア、台湾などに出店し、海外展開がスタートした。

「従来の枠を一気に超えられたのは、創業者をハッピーにするという視点の変化があったから。真の課題が見つかったわけです。そして、創業の精神を振り返るプロセスから、自分たちのチャレンジ精神に火がついた。このように利他と利己は本来一つと考えていい。仏教でいう自他不二です」

このようにフューチャーマッピングは、他人をハッピーにし、自分もハッピーになるところがポイント。成功までのストーリーを想像することによって、良質のアイデアが浮かびやすくなる。

「フューチャーマッピングの出発点は自分の内的動機です。だから、やらされ感を感じることもなく、そのストーリーを実行しやすいのです」

真の課題に気づくフューチャーマッピングの手法

フューチャーマッピングを行うことで、潜在的に持つ真の課題に気づくという。この例は、付き合いの深い取引先の店長を喜ばせるストーリーを考えたら、真の課題が自社のマーケティングにあると気づいたというもの。

課題:3時間でお客さまへの提案書を完成させたい!

Aさん(本人)●日用品メーカーの営業マン
Bさん(取引先)●ドラッグストアの店長

結果:Bさんを喜ばせるストーリーを考えていたら、課題は自社の製品ラインナップのマーケティングの見直しだと気づいた。

経営コンサルタント・作家 神田昌典氏
上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士。大学4年次より外務省経済部勤務。戦略コンサルティング会社、米国家電メーカー日本代表を経て1998年、経営コンサルタントとして独立。同年作家デビュー。
(Top communication=構成 的野弘路、貝塚純一、太地悠平=撮影)
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