トリクルアップ経済へのシフトを提唱
現在への流れのルーツとなっているのは、1980年代のレーガン政権が採用したサプライサイド経済学。規制緩和と減税を推し進め、社会保障と公共投資を削減するというサプライ(供給)を重視したスタンスをとったが、アベノミクスがそうだったようにトリクルダウンが生じることはなかった。その後35年の間に、米国経済の不平等は深刻な状況に進んでいる。
多くの人が中流層の生活を実現することも難しい状況に置かれている米国経済の現状を受け、スティグリッツ氏は極めてシンプルな提案をする。「アメリカ経済がうまく機能するように、ルールを書き換えればいい。富裕層だけではなく、あらゆる人のために」と。
このように、中間層の復活で成長を共有するトリクルアップ経済へのシフトを提唱するスティグリッツ氏は、ルールの変更には政治の考え方が大きく作用するため、将来に向けた青写真を描くこと、政治的意志が不可欠、という指摘も忘れない。
日本経済も、かつての高度成長期の仕組みをいまだ引きずる一方で雇用の流動化が加速度的に進展している。中流層が急速にやせ細りつつある姿を見る限り、現在の米国経済に向けた道を突き進んでいると危惧される。
経済学は役に立つのかという議論はかねてからされてきたが、昨今の日本では何らかのバイアスがかかった経済学説が少なくないように見受けられる。経済のプロが真摯な姿勢で世直しのための政策を提唱し、為政者が虚心坦懐にプロの意見を受け止める。こうした取り組みは、いまの日本ではないものねだりに過ぎないのだろうか。