ハイエンドスマホに求められる「強い個性」

こうした事情を考えると、今後、スマートフォンのビジネスはどうなるだろうか? 日本でもミドルクラスの需要は増えていくだろうが、大手3社が大幅に料金体系を変えた上でミドルクラスの製品を大量に導入する、といった施策をとるとは考えづらく、MVNOを中心にじわりと広がっていく、と考えるのが自然だ。


スマホを耳に当てるだけで電話を受ける、スマホを振って耳に当てれば電話をかけられるなど、画面にタップせずに通話関連機能を利用できる「スグ電」機能。Xperia X PerformanceなどNTTドコモの4機種で利用できる。

同じ機種が色々なところから販売されるようになったため、携帯電話事業者としても差別化が難しくなっている。発表会を開いたNTTドコモは、自社が取り扱うスマートフォンに「スグ電」という機能を搭載した。電話の着信時、通常は画面を触って操作しなければならないが、スグ電対応機では、本体を振るだけで着信できる。また、自社が展開する「dショッピング」など、ポイント施策を中心とした旨味のあるサービスも用意し、多角的に「ドコモを使い続けてもらう」ことを考えている。2015年以降、各社がポイントサービス連携を強化しているのは、端末が減って差別化が難しくなり、さらにハイエンドスマートフォンの求心力が落ちているがゆえでもある。

トップメーカーの稼ぎ頭であるハイエンドスマートフォンは、短期的に数を大きく減少させることこそないだろうが、少なくとも右肩上がりの状況にはない。そこで勝ち抜いていくには、「ハイエンドであることの価値」を明確にする要素が必要になってくる。

サムスン電子やLG電子は「VR」に注力する。スマートフォンと組み合わせて使うヘッドセットを用意し、それを経由して映像を見ることで、自分の視界を映像で置き換え、そこにいるかのような体験ができる。VRには高い性能が必要であり、現在のスマートフォンでもまだ不足している。だがそれでも、Galaxy S7 Edgeなどの最新スマートフォンであれば、昨年モデルよりも能力が向上している。サムスン電子は、Galaxy S7シリーズの予約者全員に、同社のVR用ヘッドセット「Gear VR」をプレゼントする。VRがどこまで市場を広げるかは議論が分かれるところだが、それでも、「マシンパワーを新しい体験に変換する存在」であることに変わりはない。

アップルが何を軸にするつもりかはまだ見えないが、アップルのティム・クックCEOは、アメリカのニュース専門放送局CNBCとのインタビューの中で、次のiPhoneに「それなしには生きていけなくなるような想像もつかない新機能」を搭載する、とコメントしている。蓋をあけるまでなんとも状況が見えないが、アップルも「強い差別化」の必要性を感じているのは間違いない。

それに比べると、日本勢はどこか弱々しい。ソニーモバイルは音声認識を含め、Xperiaと連動する周辺機器の投入を検討しているものの、製品化の予定など、詳細はまだ見えない。シャープや富士通は、今季のドコモ向けモデルでデザインを一新したものの、独自性は薄れてしまった。

ハイエンド減速傾向の今、「このデザイン、この機能があるからこのスマホを選ぶ」という強いアイデンディティを打ち出せなければ、この先選んでもらうのは難しい。日本市場が日本メーカーに有利であるのは事実だが、それはいつまで続くだろうか。