「年間サイクル」導入の背景
第一は、「売れるハイエンドスマートフォン」を作れる企業のイス取りゲームが終了し、トップグループが決まってきたことだ。
「スマホはパーツさえ集めてくればどこにでも作れる」と言われることがある。しかしこれは真実ではない。最高性能の製品を作るには、それだけ良いパーツを優先的に、しかも大量に仕入れる必要がある。また、快適なスマートフォンを作るには、ソフト面での工夫も必要だ。販売数量が少なければそういう有利な立場に立つことも難しい。
しかも、アップルやサムスン電子などは世界を相手にビジネスをしており、パーツ調達点数や開発規模からいっても、日本国内だけでは不利になる。フィーチャーフォンの時のように、「機能的にハイエンドなスマートフォンが季節ごとに何十種類も出る」ようなことにはならない。きちんと差別化した上で開発するのも難しく、年に何機種も出せるものでもない。
NTTドコモは発表会で、今夏より、発売するスマートフォンのラインナップを減らし、各メーカー1ラインナップにつき年間1台とする「年間サイクル」を導入した、と発表した。この背景には、海外大手が1年かけてハイエンド製品を作っているのに対し、国内メーカーが年に複数機種を、少しずつ変えて市場投入することで競争力が失われていた、という事情がある。年間サイクルとは、そうした状況に対応するための策である。
ミドルクラスの需要拡大
もう一つの変化が、ミドルクラスのスマートフォンの価値向上だ。技術の進展はハイエンドスマートフォンの性能向上を促す一方で、その下の機種の底上げもする。最高の性能を目指さないのであれば、コスト的にもより安価で、調達が容易なパーツを使ったスマートフォン作りができる。過去、そうした製品は満足度が低かったものだが、現在は違う。最新のハイエンド機種の半額以下の製品でも、ほとんどの用途で問題は感じない。
とはいえ、契約に伴う各種割引の存在が常態化している現状では、購入時にハイエンドスマートフォンの価格の高さを意識することは少ないだろう。こうした事情もあって、特にトップ3社はミドルクラスのスマートフォン導入に慎重だった。現在日本では、多くのミドルクラスのスマートフォンは、MVNOが展開するいわゆる「格安スマホ」として扱われていることが多い。
しかし世界的に見れば、このクラスの需要拡大は明確だ。日本でも、ミドルクラスの機種が多い、いわゆる「SIMフリー」のスマートフォンは、2015年度、前年から倍増して170万5000台が出荷された(MM総研調べ)。日本全体(年間約3658万台、同じくMM総研調べ)から見れば少数派だが、唯一大幅な伸びが存在するジャンルでもある。
3月にアップルが発売した「iPhone SE」も、若干高いものの、このクラスに属する。「久々の4インチiPhone」ということで注目されたが、一方で「型落ちでなく最新のモデルでありながら、価格を抑えたiPhone」でもあった。アップルとしても、サイズ・性能に応じて価格差をつけた商品ラインナップを、最新の性能で実現しておく必要から用意された製品と考えられる。