「年間サイクル」導入の背景

第一は、「売れるハイエンドスマートフォン」を作れる企業のイス取りゲームが終了し、トップグループが決まってきたことだ。

「スマホはパーツさえ集めてくればどこにでも作れる」と言われることがある。しかしこれは真実ではない。最高性能の製品を作るには、それだけ良いパーツを優先的に、しかも大量に仕入れる必要がある。また、快適なスマートフォンを作るには、ソフト面での工夫も必要だ。販売数量が少なければそういう有利な立場に立つことも難しい。

しかも、アップルやサムスン電子などは世界を相手にビジネスをしており、パーツ調達点数や開発規模からいっても、日本国内だけでは不利になる。フィーチャーフォンの時のように、「機能的にハイエンドなスマートフォンが季節ごとに何十種類も出る」ようなことにはならない。きちんと差別化した上で開発するのも難しく、年に何機種も出せるものでもない。

NTTドコモは発表会で、今夏より、発売するスマートフォンのラインナップを減らし、各メーカー1ラインナップにつき年間1台とする「年間サイクル」を導入した、と発表した。この背景には、海外大手が1年かけてハイエンド製品を作っているのに対し、国内メーカーが年に複数機種を、少しずつ変えて市場投入することで競争力が失われていた、という事情がある。年間サイクルとは、そうした状況に対応するための策である。

ミドルクラスの需要拡大


3月に発売された「iPhone SE」は、これまでハイエンドモデルを売ってきたアップルのミドルクラス端末といえる。

もう一つの変化が、ミドルクラスのスマートフォンの価値向上だ。技術の進展はハイエンドスマートフォンの性能向上を促す一方で、その下の機種の底上げもする。最高の性能を目指さないのであれば、コスト的にもより安価で、調達が容易なパーツを使ったスマートフォン作りができる。過去、そうした製品は満足度が低かったものだが、現在は違う。最新のハイエンド機種の半額以下の製品でも、ほとんどの用途で問題は感じない。

とはいえ、契約に伴う各種割引の存在が常態化している現状では、購入時にハイエンドスマートフォンの価格の高さを意識することは少ないだろう。こうした事情もあって、特にトップ3社はミドルクラスのスマートフォン導入に慎重だった。現在日本では、多くのミドルクラスのスマートフォンは、MVNOが展開するいわゆる「格安スマホ」として扱われていることが多い。

しかし世界的に見れば、このクラスの需要拡大は明確だ。日本でも、ミドルクラスの機種が多い、いわゆる「SIMフリー」のスマートフォンは、2015年度、前年から倍増して170万5000台が出荷された(MM総研調べ)。日本全体(年間約3658万台、同じくMM総研調べ)から見れば少数派だが、唯一大幅な伸びが存在するジャンルでもある。

3月にアップルが発売した「iPhone SE」も、若干高いものの、このクラスに属する。「久々の4インチiPhone」ということで注目されたが、一方で「型落ちでなく最新のモデルでありながら、価格を抑えたiPhone」でもあった。アップルとしても、サイズ・性能に応じて価格差をつけた商品ラインナップを、最新の性能で実現しておく必要から用意された製品と考えられる。