稚拙な憲法を改め新たに「創憲」する

現行憲法は構造が恐ろしく歪いびつで、必要なのに書いていないことがたくさんある。その原因は現行憲法が3つの下敷きから生まれた“モンタージュ”憲法だからだ。

第一の下敷きは明治憲法。現行憲法は、天皇が直截的に絶対君主であることは否定しているが、第一章が「天皇」になっていることをはじめ、基本構造は明治憲法を踏襲している。

第二の下敷きはアメリカの独立宣言と憲法、そしてフランスの人権宣言。憲法創案に携わったアメリカ進駐軍のプロジェクトチームのスタッフは主権在民の精神を苦労して盛り込んだ。

第三の下敷きは、そのスタッフたちの個人的な思いだ。彼らの回想録を読むと、「日本のここが気に入らないから、直したくてこの条文を入れ込んだ」という話が出てくる。たとえば男女同権を規定した憲法第24条には、男尊女卑の日本社会にショックを受けたアメリカから来た女性スタッフの思いが込められている。

半世紀も前の、しかも寄せ集めの継ぎ接ぎ憲法をいくら書き換えても、これからの日本にふさわしいものにはならないと私は考える。憲法を新しいものにする、私の言葉で言えば改憲ではなく創憲するのか(A)、それとも現行憲法の不具合を改正するのか(B)。これは国民が自分自身に、そして政治に真っ先に問いかけなければならないアジェンダの一つである。

一方、日本の外側に目を転じると、日本はアジアの一員であり、さらに世界が広がっているわけだが、アジアや世界における日本の相対的な位置関係について憲法は何も定義していない。

「悪いことをしてごめんなさい。もうやりません。今後は更生して、国際社会から尊敬を受けるような地位になりたい」という、反省文のような憲法前文はある。

だが、日本と世界の国々との位置関係、主義主張が一致している国、一致していない国との関係をどうするかについては何も書かれていない。工業化を果たし先進国という恵まれた立場に立った、今日の日本の国際社会に対する責任と義務について憲法はまったく語っていないのだ。

国際社会とどう向き合うかという基本姿勢が憲法で規定してあれば、外交方針や予算の使い方なども自ずと決まってくる。それに従って、お金も、技術も、人も出すという話になろう。

「尊敬されたい」の一点張りで、黙って世界に金をバラ撒いているから、G20で麻生首相が、IMFに10兆円も融資すると言ったところで誰からも感謝されない。ロシアのプーチン首相がその10分の1を拠出すると言っただけで世界中でニュースになったのとは対照的だ。