思い出したのが、子供時代にクラシックバレエを習っていたときの“あの感覚”だった――。

毎日、フェッテを300回やらないと帰れなかったんです。トーシューズには血がにじみ、歩くのもままならない、お風呂に入っては激痛が走るというのが常。それでも、明日も片道1時間半かかる教室へ行って、バレエをしたいと思えた。それは、「あの人みたいになりたい」という憧れの対象がたくさんいたから。私がどんなに練習して、上達してもかなわない。やっても、やっても追いつかない。でもそれが、すっごく楽しくて、燃えるんです。

身の丈を超えるような、目の前の憧れを目標に変えてイメージする。すると努力の積み重ねによる上達だけで終わらず、もっと突き抜けた上の世界へ行ける気がした。

憧れの湖月わたるさんのように歌いたい、と思って練習すると、楽しいし、心が刺激されて、さらに上を目指したくなる。身近な憧れを意識的に見つけることで、辛い練習が楽しくなったんですね。

そうした意識の持ち方は、今も変わらない。宝塚退団後の最初の仕事となったのは、ハロルド・プリンス演出のミュージカル『プリンス・オブ・ブロードウェイ』。他の宝塚退団者のような絶対的な主役として舞台に立つのではなく、実力派揃いのキャストの中に身を投じることを選んだのだ。柚希さんは「やっぱり……」と、少し間をおいてから続けた。

自分が手も足も出ないような“憧れ”を身近に感じながら、必死にやるということが好きみたい。

柚希礼音
2009年より 宝塚歌劇団星組トップスターを務め、2015年5月に退団。その後、ミュージカル『プリンス・オブ・ブロードウェイ』に唯一の日本人キャストとして出演。3月11日より、退団後初のソロコンサート「REON JACK」がスタートする。
(干川修=撮影)
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