知識偏重型の学力では、グローバル時代は生き抜けない。わかっちゃいるけど、どうすればいい? 各界の最前線で活躍する3人の先輩に、そのヒントをいただいた。

「天声人語」の要約で母を超え「勘違い」できた

『走ル』『ミート・ザ・ビート』『メタモルフォシス』などで芥川賞候補となり、ついに2015年、『スクラップ・アンド・ビルド』で第153回芥川賞を受賞した羽田圭介さん。受賞後は作品が売れに売れており、テレビでの活躍も目覚ましい。

羽田圭介さん

文壇デビューは早かった。明治大学付属明治高等学校に在学中の17歳のとき。異様な兄弟関係を描いた『黒冷水』が、第40回文藝賞に輝いたのだ。さぞや子供のときから本に親しんでいたのだろうと思いきや、「文学書が一冊もない家に生まれた」と振り返る。

実は、小説家を目指すきっかけの1つは、「中学受験勉強」にあったというのだから驚かされる。

小5の5月から進学塾へ通い始めました。すると母が、国語の先生から「朝日新聞の『天声人語』を要約すると、文章能力の基礎力アップにつながる」と教えてもらったらしいんです。夏休みに入ると、学校の宿題や塾の課題とは別に、毎日、「天声人語」の要約をやらされました。苦痛で仕方がありませんでしたね。

はじめの数日は、大学ノートに、写経のように書き写していただけ。すると母に「全然要約できていない!」とこっぴどく怒られて。容赦のないチェックが入りました。

当時の羽田さんの母の気持ちを軽々に推察することはできない。しかし、せっかく努力するなら、成果に結びつけてほしいと願う気持ちが伝わってくるようだ。

それで“写経”を続けていると、やがて半分、さらには3分の1ほどまでにまとめられるようになり、毎日の要約作業が苦ではなくなりました。夏休みも終わりに近づくと、1回分の天声人語を、大学ノートの4~5行にまで難なく要約できるようになっていたんです。

すると母の対応に変化が表れた。何かを指摘されることがなくなり、怒られることもない。

そのとき、「僕はもう母から教わることは何もない」と思いましたね。単に文章の要約がうまくなっただけなのに、自分に文才があると“勘違い”したんです。