宝塚音楽学校に入学すると、周囲は筋金入りの宝塚ファンばかり。かたや柚希さんはトップスターの名前もわからない。同級生たちは、柚希さんが先輩の顔と名前を覚えられるよう、クイズを出すなどして協力してくれたほど。一方の授業はといえば、バレエ、ダンス、日舞、茶道など芸事が中心。特にダンスは、タップダンスやモダンダンスなど、何をやっても楽しかった。
ただ――、歌と演劇が苦手だったのだという。
あまりにもヘタで。自分でもわかっているから人前でやりたくない。とにかく避けようとしていました。
それは宝塚歌劇団に入っても同じだった。入団7年目までの若手で上演される新人公演では、「柚希の歌で大丈夫か」と周囲に不安がられたこともあった。
役がつくことは嬉しいんです。それなのに「歌ができません」ではお客さまにも先輩たちにも申し訳が立ちません。なにより自分自身が許せなくて。「今このチャンスで歌が上達しなければ、もう次はない」と思い、真剣に苦手克服に取り組むことを決意したんです。
新人公演の稽古が夜10時に終わってから、個人レッスンの歌の先生を訪ね練習がスタート。夜を徹し日が昇るまで続けられることもしばしばだった。
レッスンを続けていると、ほんの少しずつでも自分が成長していることがわかるんです。「あんなに声が出づらかったのに、この歌い方ならノドも痛くない」とか。やっぱり芸事は楽しいんだ、やればやるほど、ちゃんと自分に返ってくるんだと実感できました。