この勘違いこそが侮れなかった。これこそが羽田少年を文学の世界へと誘(いざな)う、最初の一歩となったのだ。
中学に入り、長い通学時間の間に暇つぶしのために本を読みました。そうして出合った椎名誠さんの作家としてのライフスタイルに憧れるようになっていった。
それでも小説を書くには至らなかったのですが、高1の終わりくらいに、綿矢りささんが、17歳で文藝賞を受賞したと聞き、「うわぁー、本当に学生のうちにデビューしちゃう人がいるんだ」と思って。すごく刺激されました。
そして、当然のことのように小説家を目指し始めたんです。なんせ、その頃もまだ、自分の文章能力に対する“過信”は揺るぎないものでしたから。
早速、いろいろなアイデアを捻りだしてはネタ帳をつけ、高2からは習作を書き始めた。その後の活躍は、みなさんご存じの通りである。
才能と同じくらい、勘違いによって生まれるモチベーションも大事なんだと思います。「これをやっていても、花開かないかもな」と諦めかけても、思い直して継続できるようなモチベーションです。子供は大人に褒められると「自分はこれが得意なんだ」「自分には才能があるかもしれない」と素直に思いこみますよね。「○○くんは面白いね」と言われ続けていたら、お笑い芸人の道を歩んでいたりとか。きっと、そんなきっかけも大事なんじゃないかな。
羽田さんの場合、直接的に褒められたわけではない。母親の態度の変化から、「僕は母を超えたんだ」と勝手に思っただけである。しかしこの大いなる勘違いがモチベーションの源泉になったのは間違いない。
子供に勘違いをさせるという意味では、大人はもっと気軽に子供を褒めていいのだと思います。
1985年生まれ。明治大学卒業。2003年、明治大学付属明治高校時代に『黒冷水』で作家デビュー。同作で、第40回文藝賞を当時最年少の17歳で受賞。15年、『スクラップ・アンド・ビルド』で第153回芥川賞受賞