勢いに任させたクーデターは失敗する

しかし、自分たちに大義があれば、それでうまくいくというわけではない。改革派の部課長が血判状を集めても、取締役会で社長(代表取締役)の解職決議が可決しなければ、不満分子として社内では評価され、粛清される。中島弁護士はさらに次のように語る。

「改革を断行するというのは、取締役会で代表取締役の交代をできるかどうかです。10年ぐらい前に航空会社で4人の取締役が50人の署名をもとに社長に辞任を迫ったという話がありました。あのケースも結局は、取締役会で代表取締役の解職と選定(解任・選任)で、多数派をとれたからできたのだと思います。課長や部長たち管理職の熱意が改革派の取締役を動かし、それが他の取締役たちをも説得することになり、代表取締役を交代に導くことができた。それができるかが、カギになるのです」

改革派に取締役が賛同していたとしても本番の取締役会では怖じ気づき、1票を投じないということもよくある。実際にクーデターの場面に何度も遭遇してきた中島弁護士はこう述懐する。

「改革派の課長級が社員食堂などで連判状を書いて社長に辞任を求めたり、執行役員や取締役が社長室に乗り込んで退陣を迫るようなケースもありました。課長級の社員や役員がワーッと押しかけて代表取締役に退陣を迫るようなやり方が改革のように思われているのですが、それではうまくはいきません」

クーデターがいったん失敗すれば、その後の改革派に対する風当たりは強い。そうならないためには社員たちはどうすればいいのだろうか。中島弁護士はさらにこうアドバイスする。

「やはり『会社』というシステムの中で改革を進めなければならない。そのためにはまず、取締役会です。場合によっては課長級の社員たちの熱意が伝わって多数派を形成することがあります。取締役会までいかなくても、代表取締役がレピュテーションリスクを考え、『新聞沙汰になるのはまずい』と辞めるようなケースもあります。さらに監査役や社外取締役などの外部勢力が大きな力になってくれることがあります。会社が非常事態であるのに、社長が対策を打ち出せないでいたところ、監査役や社外取締役が動いて、それで株主総会で代表取締役が辞任したというケースもあります。」

そうはいっても経営陣は大きな力を持ち、法律に守られている。そのため経営陣に対してクーデターを起こすというのは大きなリスクがある。

「ある会社で『課長20人が決起します。ついては相談役になってほしい』と相談されたことがありました。しかし、そのとき弁護士の私が言えるのは『私は会社の弁護士です。このことは会社には伝えませんが、私がお手伝いをすることはできません』と言わざるを得ないのです。会社の顧問弁護士とは何かというのが実は大きな問題なのです。平時、社長のいうことを聞いていればいいのでしょうが、社長の指示は取締役会の意向に沿っていなければならない。取締役会は株主の大半の意見を反映していなければいけないので、株主、取締役会の指示を得ている社長がいて、その社長のもとに動くのが顧問弁護士です。たとえば経営陣の依頼を受けている顧問弁護士は、社員のクーデターを会社に対する信用棄損などの法的な問題にすることができます。クーデターを起こす社員たちも自分たちの意を受けて動いてくれる弁護士を依頼する必要があると思います」(中島弁護士)