カツ丼と警察官には深いつながりがある

「裁判前であっても、自白した内容から、懲役は確定だろうなという人がいる。そうすると“長い旅”になるわけです。『カツ丼でも食えよ』『じゃあ、ごちそうになります』と、元気で勤めあげろよという気持ちで、私もカツ丼をおごっていました」

そもそもカツ丼と警察官には深いつながりがある。24時間、事件が起これば即出動だから、出前を頼むとき、その品目は非常に限られる。まず除外されるのが麺類だ。注文したあとに事件の知らせが入ろうものなら、署に戻ってきたときには、汁は完全になくなり、麺は伸びきっていて、食べられたものではない。

そして警察署内は非常に慌ただしい。出前が届き、さて食べようと思ったら、事件の対応を協議するために自分のデスクが占領されている。どいてくれとはとても言い出せない雰囲気だから、部屋のすみに移動することにする。高いモビリティを確保するためには、何皿にも分けて盛られている定食系は避けたほうが無難だ。といった具合に、メニューは丼ものに限られていき、体力勝負の警察官としては、ボリュームがあるほうが望ましい。さらに、ぜいたくが許されるなら、出先から帰ってきて、レンジで温めなおせばおいしく食べられるものがいい。こうした幾多の要望にたえるメニューがカツ丼というわけだ。

刑事たちにとって定番のカツ丼はまた、留置所や拘置所の食事と比べれば豪勢だし、少し値が張るとはいえ、刑事の懐が痛むほどではない。だから、気前よく被告人におごることができる。

フィクションの世界では泣き落としの道具として活躍するカツ丼だが、現実には罪を認め、贖罪の旅のはなむけとして供されるのはそういうわけだ。

「連れてこられて、『カツ丼食べられますか』という人はいまだにいるようですが、取り調べというのはギリギリのやり取りです。食べ物でつろうなんて考えではだめ。それを警察官が心している限り、取調室でカツ丼が出てくることは絶対にありませんよ」

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