全社員を巻き込むカギは情報開示

約60カ所で集会を重ね、会社が何を考えているかを伝えたが、具体的な内容はまだ公にしていないから話せない。当然、自分の将来がどうなるのか、不安の声が続く。あるとき、都内の集会に、会社が委嘱している産業医がいた。初対面だったが、「小泉さん、いいことを教えてあげようか」と興味深い話をしてくれた。

「人間は情報が不足していると、不安になる。いつ、自分は合理化の対象になるのかと疑問を持ったまま時間がたつと、情緒が不安定になる。でも、情報を全部教えると、そうならない。『社員1万6000人のうち、4000人の希望退職を募集するだけ』と明かすと、『自分は応じるか、残るか、どちらにしよう』と次の人生を考え始め、不安にはならない」

なるほど、と思う。カギは情報開示。開示して外に漏れたら、問題が起きるだろう。でも、そのリスクよりも、社員が「納得がいかない」「会社の将来像がみえない」と不満や不安を抱えるリスクのほうが大きい、と頷く。「どうすれば全社員を巻き込めるか」の自問自答が、終わりを告げる。

8月6日、05年度までを展望した中期経営計画「JT PLAN-V」が発表された。「V」は05年度の「5」に、英語のVictory(勝利)の「V」を重ね、「プランブイ」と呼んだ。同日、「マールボロ」の契約を更新しないことも決め、公表する。

「得成竹于胸中」(成竹を胸中に得)――竹を描く際は、胸中にどう描くか竹の姿がなくてはいけないとの意味で、中国・北宋の詩人・書家の蘇軾(そしょく)の言葉だ。課題の解決や克服に当たるときは、前もって成し遂げたときの姿が心中になければいけない、と説く。あるべき姿を描きながら経営改革を重ねた小泉流は、この教えと重なる。