また10年延長すれば、収益を増やそうと力を入れる。すると、10年後の更新時にはシェアがさらに上がり、打ち切りはより難しくなる。それでは、後に続く面々に、大きな宿題を残す。無論、減益を懸念し、反対する幹部がいた。それには「本当に、それでいいのか。後世の人間にそんな重荷を背負わせ、自分たちは会社を去っていくのですか」と問いかけた。最後は「それは、不作為の罪になりませんか」とも迫った。課題解決の先送りは「不作為の罪」。いまでも、出る決め台詞だ。

ただ、1000億円の減益となると、やはり厳しい。不採算事業の見直しや人件費を含むコスト削減など、大胆な経営改革が不可欠だ。でも、公社時代は独占、専売廃止で外国たばこの輸入が増えても圧倒的なシェアを維持していたから、社内は危機意識に欠ける。

手を広げ過ぎていた事業の「選択と集中」は始まっていた。日曜大工用品の販売、広告宣伝、健康関連商品の販売、ハンバーガー店チェーン、独自に生産したトマトやキュウリの流通など、次々に事業の売却や撤退を決めた。ただ、改革は道半ば。一方で99年、米RJRナビスコの米国以外のたばこ事業を当時の換算で約9400億円で買収し、販売本数で世界4位から3位へ上がった。だが、世界2位はなお2倍、首位は3倍近い本数。グローバルに戦い抜くには、なお体質強化が必要だった。

どこかで大きな方向転換を図るには、全社員を巻き込まねばならない。どうすれば、それができるか。自問自答が始まり、たばこ工場の削減、退職募集などを決めて迎えたのが、冒頭の増税。改革推進本部を立ち上げると、一気に対策を決めていく。たばこの葉の生産過剰を防ぐため、農家に廃作を募る以上、会社ももっと身を削るべきとして、工場閉鎖と希望退職の追加を盛り込む。改革後の事業はたばこ、医薬、食品に集中し、それ以外は撤退する。給与は横並び型の職能給から、仕事に応じた職務給に変える。そうした腹案が4月初めに固まり、メンバーと手分けして全国の職場を回る。