今の退職者は企業戦士として、働きづめに働いてきた人が多い。そういう色恋に免疫のない人が、時間とカネを余らせているところに恋人ができれば、それはもう歯止めがきかない。いくら子供が「お父さん、それは騙されているよ」と言っても、本人は舞い上がっているから聞く耳持たず。かといって、再婚さえ阻めばいいというものでもない。仮に籍を入れない内縁の妻でも、相続権が認められることもあるからだ。

このようなとき、子供にできることは、一度相手の女性に会わせてもらうことくらいだろう。会いたいと言って逃げ出すような女性なら、最初から財産目当てだったということだ。もし「本気でおつきあいしています」と言うなら、「資産については××円以上要求しません」というように一筆書いてもらうのも手である。もっともこれは父の逆鱗に触れる可能性も大だ。

最大の防御策は親が生きている間に遺産の相続を受ける生前贈与だが、これを子供のほうから切り出すのは難しい。親のほうも「カネの切れ目が縁の切れ目」だとわかっているから、ぎりぎりまで相続させないだろう。

父が頑なな態度になるのは、子供に問題があることも多い。父の資産をまるで自分のものであるかのように思い込んで、父を思い通りにしようとするから、向こうも不信感を抱くのだ。親子関係を良好に保ちつつ、暴走しないよう見守るほかに手はないだろう。

「婦人公論」編集長 三木哲男
1958年、兵庫県生まれ。東京学芸大学卒業。繊研新聞記者を経てフリーライターに。2000年に中央公論新社入社。「中央公論」編集部を経て、03年「婦人公論」副編集長、06年から現職。
(長山清子=構成)
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