恵まれた日本の治療環境

それから、手術を受けるなら「できるだけ腕のいい先生にお願いしたい」という気持ちはわかりますが、厚生労働省が指定している全国約400のがん診療連携拠点病院であれば、治療のレベルに大差はありません。ですから、胃腸や乳腺など身近ながんなら、病院や医者選びにさほど神経質にならなくても大丈夫です。

セカンドオピニオンについても同様で、標準治療が定着しているため、同じ検査結果をみて専門医が異なる診断や治療をすることはまずありませんが、がん医療の進歩で抗がん剤や放射線治療での選択肢も広がっていますから、納得して希望をもってがんに立ち向かうために役立つこともあるでしょう。ただし、がんと診断されたら、その診断を下した、しかるべき病院の主治医の指示に従うのがいちばんいいと私は思います。

がんで死なないために、ぜひ心がけていただきたいことが2つあります。タバコを吸わないことと、定期健診を受けることです。がんというのは火事と一緒で、いったん燃え広がってしまうと手がつけられなくなりますが、火が小さいうちならいくらでも対処のしようがあるからです。

もしがんになってしまったとしても、絶対に希望を捨てないでください。日本の医療レベルは非常に高く、しかも国民皆保険のおかげで、誰もがそれを安い金額で利用できます。私がアメリカで手術したときは、費用が400万円近くかかりましたが、日本なら80万円程度ですんだはずです。しかも当時と比べてがん治療の技術は格段に進歩しています。そんな恵まれた環境にいるのですから、がんだと聞いても絶望することはありません。

しかしながら、日本人の3人に1人ががんで亡くなっているのもまた事実です。ですから、がんに立ち向かう一方で、残りの人生をいかに充実させるかを考えることも同じくらい重要になってきます。どうせ人間はいつか死ぬのです。がんになったことでそのことを自覚し、先送りをやめてやりたいことを端から力いっぱいやるようにすれば、結果的にがんのおかげで充実した人生を送れたということになるじゃありませんか。

また、安静にしていなければならない病気ではないので、仕事だってバリバリやってかまわないのです。ただ、日本ではがん患者に対する理解がまだ不十分なところがあり、会社によってはがんだというだけで第一線から外されたり、閑職に異動させられたりするようなケースもまま見受けられます。がんになったけど以前と変わらぬよう働きたいし、その能力も気力もあるなら、その旨を主治医から上司に説明してもらうのもひとつの手です。

それから、普段から弱者への思いやりをもち、人のために役立つことを心がけることが大切です。そういう生き方をしていれば、病に伏しても多くの人が手を差し伸べてくれます。最後にものをいうのは元気なときの生き様なのです。

▼がんとよく生きるための3カ条
[1]現代医学を信頼する
[2]悔いなく生きる
[3]弱者をいたわる

楽天銀行取締役 関原健夫
1945年生まれ。京大法学部卒。69年、日本興業銀行に入行。みずほ信託銀行副社長を経て、現在は楽天銀行取締役ほか複数の会社で監査役を務める。日本対がん協会常務理事。中医協公益委員。
(山口雅之=構成 永井 浩=撮影)
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