最初の手術から2年後、肝臓に転移が見つかります。当時は肝転移の手術はきわめて難しいと言われていたため、これで万事休すかと暗澹たる気持ちになりましたが、ほかに手はないので肝臓の50%を切除するという手術に踏み切りました。
そして、その2年後に2回目の肝転移と手術。このころはだいぶ手術慣れしてきていて、それほど動揺もしませんでしたが、そのすぐ2カ月後に、がんが左の肺に転移しているのがわかったときは、「またか」とさすがに気持ちが切れそうになりました。
でも、よく考えてみたら、医者が手術を勧めるのは、生きられる可能性があるからでしょう。それに手術をしなければ、どの道がんが大きくなり、苦しんで死ぬだけです。そう自分に言い聞かせ、半ば開き直って手術を受けました。
その2年後、がんはもう一度左の肺、それから半年後右の肺にも転移します。そして、それらをすべて手術で取り去ったのが90年。以後、転移は起こっていません。完治したのです。
日本人の場合、男性は2人に1人、女性は3人に1人ががんに罹ります。言葉を換えればがんにかかる確率は、誰にとっても決して低くはないのです。それなのに、ほとんどの人は、まさか自分ががんになるはずがないと思っている。この私もそうでした。だから、がんを宣告された途端に正気を失い、冷静な判断ができなくなってしまうのです。
いざというときパニックに陥らないためには、自分が将来がんになったらどうするか、日ごろから折をみて考えておくといいでしょう。たとえば身近にがんで亡くなられた方がいたら、自分が同じ立場になったらどうするか想像してみる、あるいは家族と話し合ってみるのです。いまはがん患者の闘病記がたくさん本になっているので、そういうものを読んでおくのもいいかもしれません。
医者の説明で不明な点や納得できないことがあれば、質問し納得して治療に臨むことも大切です。質問は患者の権利、遠慮することはありません。また、私が理事を務めている日本対がん協会にもコールセンターがあるので、電話をしていただければ、専門のスタッフがいつでも相談に乗ります。