「このままでは目指す目標に届かない」という焦り

中学受験において、第1志望に合格できるのは3割にも満たないとも言われている。受験を終え、もし第1志望合格という結果ではなかった保護者には、「第1志望の存在は、この子のやる気を引き出し、能力を伸ばしてくれたけれど、今、この子にとって一番いい学校は、こちらの学校だったのだ。神様は、努力した者に、最善の結果を与えてくれたのだ」というような健全なるルサンチマンを感じてほしいと私は思う。

大手進学塾に通う生徒向けに、補助的な個別指導を行う塾の保護者相談会に参加したときのこと。「成績が伸びない。娘の塾の勉強を毎日見てやるのだが、授業の内容をほとんど理解できていないように感じる。どうしても怒鳴ってしまう。塾の宿題を全部やらせようとは思っていないけれど、あまりにも時間がない。どうしたらいいかわからない」と、いささか取り乱し気味に訴える父親の目は、文字通り血眼だった。子どもの成績が伸びないから取り乱しているのか、父親がこのような状態だから、子どもは萎縮して、成績が伸びないのか。卵が先か、鶏が先かである。

別の個別指導塾に通うある小学6年生の母親は涙ながらに告白してくれた。

「模試の成績で偏差値が下がるたびに不安になり、もっとやらせねばならないと焦り、怒鳴り、わが子を罵倒する。あの参考書がいいと聞けば参考書を買い、『これもやりなさい』とさらに負荷をかける。今思えば、自分自身が不安に押しつぶされそうになるのを防ぐために、子どもを追い詰めていた」

幸いその母親は、受験のプロのカウンセリングを受け、悪循環から脱した。すると、子どもの成績も伸びた。

いずれの例も、詳しく聞けば、偏差値的には「どこの学校にも入れそうにない」という成績ではない。しかし、「このままでは目指す目標(学校)には届かない」という焦りから、不安にとりつかれたのだ。

第1志望に大きな憧れを抱き、モチベーションにすることはいい。しかし、第1志望しか見えなくなると危険だ。失うものが大きいと感じれば感じるほど、不安も大きくなる。大きな不安を抱えると、その不安に自分自身が振り回される。その悪循環にはまりやすいのは、受験生本人ではなく、親のほうである。それが、中学受験で親子が壊れ自滅する、典型的なパターンなのだ。

本来であれば受験終了後に発症する「第2志望でも納得できないという病」は、受験勉強のさなかから、親の心に病巣を作り、親子をむしばむのである。

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