成功は真似できないが失敗は避けられる
そこで考えたのが「バリュー・ネットワーキング」構想だった。LT(物流)、IT(情報)、FT(決済)を融合させ、総合物流企業として新たな付加価値を提供することで、「宅急便1本足打法」からの脱却を図る。その一つとして東京・羽田に総額1400億円を投じて、海外と日本を結ぶ国内最大級の複合施設「羽田クロノゲート」を建設した。
ヤマトグループには過去、これだけの巨額投資の経験はない。海外のアナリストからも「回収できるのか」と問われたが、決断に迷いはなかった。本書にも記載されているが、戦略のグランド・デザインが明確ならば、戦力は逐次投入せず、大胆に投じるべきだからだ。13年9月から施設が稼働し、あの決断は正解だったと実感している。
成功にも失敗にも普遍的な要因はある。だが、成功事例を真似するのは難しい。運やタイミングなど特殊な要因が多く、事例をなぞるだけで成功するとは限らないからだ。一方、失敗事例を学べば、同じような失敗は必ず避けられる。失敗に学ぶことで、失敗を恐れない決断を下すことができるのではないだろうか。
1949年、広島県生まれ。73年、富士銀行入行。2004年みずほコーポレート銀行常務取締役。05年ヤマト運輸入社、常務取締役。11年ヤマトホールディングス代表取締役社長兼社長執行役員。15年より現職。