目の前のプレゼンにうっとりファーストクラス気分
「いってらっしゃいませ」
CAに笑顔で見送られ、私は、胸が高鳴った。なんだ、この高揚感は! まるで1席100万円級のファーストクラスに乗るような気分ではないか。
非営利イベントであるTEDxHanedaは、スタッフもボランティアで成り立っている。今回もCAが案内し、パイロットがゴミ集めをし、整備士がパーティーの設営を手伝うといったように協賛企業の社員もサポートしていた。
それを見ているからだろうか、私たちもただお客さんとして「聞きに来た」というより、オーディエンスとして参加している。そんな一体感があった。無意識にオーディエンスという役割を担いつつ、作り上げている感覚だ。
こうした雰囲気でのプレゼン。私は、耳ではなく、全身で聞いた。エピソードのひとつひとつが、皮膚を通じて、身体に入り込むようだった。
サングラス型や腕時計型PC。今でこそ知られるようになったウエアラブルを10年以上前から身につけてきた神戸大学の塚本昌彦教授のプレゼンでは、当時のその外観の異質さからひとりぼっちで食事をする写真が次々出てくるたびに会場は爆笑した。
産婦人科医として働きながら5人の子どもを出産し、育ててきた鈴木保奈美氏のプレゼンの冒頭では、「あなたには助けてと言える人がいますか?」という静かで強い問いかけに、はっと我に変えるような空気が会場内に一瞬にして流れた。
その場で、絵の具や水などを使って即興ライブアートを行うアーティストのプレゼンでは刻一刻と変わっていく作品の動きにみんなが息を飲んで食い入るように見つめた。
また、別のプレゼンの中では、隣の人に話しかけてみるというワークショップ的な一場面もあるなど、単なる講演会とはひと味もふた味も違う、リアルな面白さを満喫できたのだ。
さらに、セッション間の休憩時間ともなるとコーヒーやお菓子を手に取りながらホールで見知らぬ人とも話に花が咲き始める。“アイデア共有”の精神は、参加した人すべてに伝染するようだ。