「大便まみれ」の私、「口だけ」の兄
ただし、りんこさんの前出著書には、お母さんが骨折で入院した時、下痢でトイレに間に合わず、付き添っていたりんこさんが大便まみれになる惨事に遭遇、その瞬間「自分にはオムツ処理の介護はできない!」と悟ったと書いています。
が、お姉さんはそうした苦労はありませんでしたが、他の苦難に襲われました。
頭もクリアで基本的に元気なお母さんがつきつける要求は厳しく、その度に言い合いになったりケンカになったそうです。そんな時、お姉さんはりんこさんに電話をかけてくる。「こんなひどいことを言われた」と。それを聞いたりんこさんは罪悪感を感じ、お姉さんの介護のフォローをするため、片道1時間半の道のりを運転し、お母さんの元に通うようにしたそうです。
▼「あの子は優しい」息子だけを褒める母
では、もうひとりいるきょうだいのお兄さんは何をしていたか。
介護が始まった当時、お兄さんは50歳に手が届く年齢。一家の主でもあり、仕事優先というのはわからないでもありませんがが、りんこさんから見れば、仕事にかこつけてお母さんの介護をほぼやらなかったように見えたそうです。
それでいてお兄さんは時折お母さんの元を訪れ、優しい言葉をかけたり励ましたり、今、お母さんが抱えている病気に効く薬の提案をしたりするとのこと。
それがお母さんにはうれしいらしく、「あんたたちと違って、あの子だけは優しい」などと言うそうです。当然、お姉さんとりんこさんは怒り心頭。自分たちは仕事もプライベートも犠牲にして介護している。母親の召使い状態の日々で精神的にも肉体的にもボロボロだ。ところがお兄さんは、介護を事実上ふたりに押しつけ、口だけ心配している風を装って良い子になっている。許せないというわけです。
老親の介護をきょうだいがすることになると、負担の違いを巡ってこうした諍いが必ずといって生じるようです。きょうだいには遺産相続の問題も絡んできますから、介護でした苦労が争いのもとにもなる。
ひとりに負担がのしかかるのは当然大変です。しかし、きょうだいがいて複数の手があってもトラブルや悩みは尽きない。誰しも介護は避けられないものですが、それによって家族の崩壊を招きかねない「事件」であることは知っておいた方がよさそうです。