2009年秋、常務がやってきて「最高のシステムができた。どこかに穴があるといけないので、ちょっと聞いてほしい」と切り出した。話を聞いて、いろいろ質問してみると、画期的で面白いし、発展性も大きい。事実、FRAPSは健康食品や化粧品などのネット通販が急成長していくと、注文品を手際よく詰め合わせていくのに威力を発揮し、いまではヤマトが擁する国内最大級の物流施設「羽田クロノゲート」でも重要な役割を果たしている。

常務を前に、即座に親会社ヤマトホールディングスの首脳陣に電話して、面会時間をもらう。グループ全体に導入すべきだと思ったからで、常務には「すぐに、ビジネス特許を取れ」と指示を出す。ただ、ヤマト型の細かな配送網がないと威力を発揮しないシステムだけに、国内外の競争相手も簡単には追随できない。

第1号のシステムは、2010年9月、愛知県小牧市の愛知クイック通販ロジセンターに導入した。49歳のときだ。従来は様々な商品がまとまった単位で納品されてきて、それらを棚に積んでおき、必要な数だけ取り出していた。だから、いつも在庫が残る。

でも、FRAPSは細かい単位でコントロールできるので、その日に詰めて出す量だけを納品してもらえば済む。いわば物流の「ジャスト・イン・タイム方式」で、在庫は生じない。商品を流しながら取り出していくので「止めない物流」と言われ、作業の時間やスペースの効率が大きく上がった。少量多品種の選び集めは、通販商品だけでなく、小売店の仕入れにも向く。現在は神奈川県など国内に13カ所、海外も台湾、上海、タイに入れている。

ギリシャ神話に出てくる時間の神「クロノス」から名付けた羽田クロノゲートは、羽田空港に近い大型ポンプ工場の跡地で、2013年秋にできた。故障した家電製品やパソコンの回収・修理、購入時の初期設定などのほか、柱に育った事業が手術などで使われた医療器具の回収、洗浄、保管、病院への再配送だ。

ヤマトロジスティクスの社長時代に「ほう・れん・そう」を契機に買収した事業で、医療機関にとっては置いておくスペースが不要になるし、洗浄から再使用までの期間も短縮できるので、全国の約400機関が利用している。