LGBTの知恵や感性を活かすには
ではLGBTの人たちがいきいきと働けるようにするため、どんな取り組みが必要になるのだろうか。
安冨氏は「LGBT同士や、彼ら彼女らに理解を示す社員が交流できるコミュニティをつくり、会社として支援する。そうした活動を通じて、社内外の無理解や差別を減らしていくのです」と指摘する。
例えばWorks誌124号では、ゴールドマン・サックスの「LGBTネットワーク」という社内横断組織が紹介されている。当事者、支援者を含め、会員数は国内だけで約200人。会員同士の交流だけでなく、社外のイベント参加、LGBTの学生向け会社説明会などの活動をしている。
「こうした活動の支援で、企業にどれほどの費用負担がかかるというのでしょうか」(安冨氏)
LGBTは、人口の数%は存在するという調査結果もある。こうした取り組みでLGBTの人たちがいきいきと働き、生産性を上げてくれるなら、非常に効率のよい投資ではないだろうか。
「LGBTだけでなく、性別、障害、宗教、慣習などによって差別を受けているマイノリティが、世界にはどれだけいることでしょうか。『当社ではあらゆる差別を許しません』と、世界中から差別を受けている優秀な人材を集めたなら、どんなイノベーションが起こるのか想像してみてほしい。そのコストはわずかです」と、安冨氏は話す。
海外では、大手企業のリーダーやトップクリエイターがLGBTであることを次々とカミングアウトしている。またその人々がもたらしてきた功績も認められている。LGBTに限らず、ダイバーシティに不寛容な企業は「差別的」と指弾される社会になってきている。一緒に働く人たちの多様性を受け入れられない堅物は、今後さらに社内での居場所を失っていくことになるだろう。
1963年生まれ。京都大学経済学部卒業後、住友銀行勤務。京都大学大学院経済学研究科修士課程修了。2009年から現職。人々の魂の脱植民地化に役立つ「社会生態学」創設を目指す。著書に『誰が星の王子さまを殺したのか』、『ドラッカーと論語』など。