だがドラッカーは、マーケティングとは、外界からのフィードバックを受け止めて、「己を知っていくこと」だと説明している。「この場合のフィードバックとは、自らの振る舞いの結果、他者などの外部環境から返ってくる応答のことです。その応答を無視しては、組織も個人も成り立たないとドラッカーはいっています」(同)。

イノベーションのほうも、日本では「技術革新」と訳されることが多いが、技術やモノだけを意味するのではない。フィードバックを通じてもたらされる応答、つまりドラッカーの言うマーケティングを、人や組織が真剣に受け止めるなら、それは必然的に自己の変革に結びつく。これが「学習する」ということなのだが、それは自らを新しくつくり替えていくことでもある。その新しくなった自分は、周囲とのコミュニケーションのあり方に自ずから変化をもたらしていく。これがドラッカーのいうイノベーションなのだと、安冨氏は説く。

まとめると、ドラッカーのいう「マーケティング+イノベーション」とは、周囲とコミュニケーションを取りながら(フィードバックを受けながら)、自らの行いを注意深く観察し、自らのあり方を変え、周囲とのコミュニケーションのあり方を変えていくことなのだ。

これを個人と組織の関係に置き換えると、従業員一人ひとりのマーケティング+イノベーションの集積が、企業としてのマーケティング+イノベーションとなっていく。従業員一人ひとりが学習によって自らを新しくつくり替え、周囲とのコミュニケーションを変えていくことこそが、企業が顧客とのコミュニケーションを変えていくことにつながっていく。これが本来のイノベーションなのだ。

企業が利益を上げ生き残っていくためには、時代を読み、イノベーションを起こし続けるしかない。つまり、イノベーションを起こせる従業員をどれだけ増やせるかが、勝負の分かれ目となってくるのだ。