安倍晋三政権の成長戦略の1つである、雇用制度改革。潜在的な労働力である主婦が働きやすいようにと、パート契約者の正社員化で企業に助成金を出すとともに、仕事や勤務地、労働時間などを限定して契約できる「限定正社員」の導入を勧めている。一般的に9~5時で働く通常の正社員(以下、フルタイム正社員)に対して、1日4時間や6時間などで働く短時間正社員は、その代表的な例だ。労働時間に合わせた給与以外は、正社員と同様に契約期間を区切ることなく、昇給や福利厚生の対象にもなるため、子育て中の女性などの新たな働き方として注目されている。国内では導入企業が徐々に出てきた一方で、現場の理解や社内制度の遅れなどもあり、まだまだ導入に消極的な企業も多いのが現状だ。

オランダはこの短時間正社員(パートタイム正社員)制度を1980年代から取り入れ、現在では世界初のパートタイム経済とさえ呼ばれるようになった。同制度の導入から30年以上経ち、その光と影が明らかになってきたオランダの現状から、日本の今後の働き方を探る。

約20年かけて3段階で進んだワークシェアリング

勤務体系も人それぞれのため、まだ明るい時間に帰宅する人も多い。平日でも、仕事後に家族や友人とプライベートの時間を楽しむ生活が当たり前だ。

「オランダの短時間正社員制度の問題は、もうほとんど解決されていると思います。少なくとも私自身は、まったく不満はありません」。オランダの短時間正社員にインタビューすると、大方の人はこう答える。「国民がここまで満足できる制度など存在しうるのか?」と懐疑心を抱いてしまうが、この国の労働事情は、本当にバラ色なのだろうか。

オランダにおける労働時間短縮の動きは70年代の不況を機に始まった。82年、労働者の賃金抑制と引き換えに、企業は従業員の労働時間短縮を認めるというワッセナー合意が締結されると、女性の短時間正社員の雇用が積極的に行われるようになった。96年には労働法が改正され、フルタイム正社員と短時間正社員の間で時給や昇進に格差を設けることが禁じられた。さらに2000年には、労働時間調整法により、短時間正社員からフルタイム正社員へ、またその逆へ移行する権利、つまり、週当たりの労働時間を自発的に決定できる権利が認められた。

ワッセナー合意、労働法改正、そして労働時間調整法の3段階でできあがった現在のオランダのワークシェアリング制度は、労働市場に大きな変化をもたらした。75年には30%だった女性の就業率が11年には約70%まで激増したのだ(OECDデータ)。