失業手当は不況対策よりも男のプライド維持?
次に、ワークシェアリングと失業の関係を見てみよう。08年のリーマンショック以降、オランダは激しい不況に見舞われている。そもそも不況による失業率の上昇を食い止めるために導入されたワークシェアリング制度だったが、01年に2.5%まで下がった失業率は、14年に再び7%まで上昇した(IMF)。
ところが、オランダ中央統計局(CBS)のデータを見ると、女性の就労率は経済危機に関係なく上昇しており、逆に男性の就業率が低下している。男性が多い金融や建設部門が経済危機の影響を最も強く受けたためでもあるが、結果的に不況のあおりを最も受けたのは男性のフルタイム正社員だった。
オランダではこの不況による失業者を抑制するため、09~11年の一時期、パートタイム失業手当制度が導入された。この制度は、経営者が一定期間、従業員の週当たりの勤務時間を最高50%削減できるというもので、適用を受けた従業員には、削減期間中、労働時間の削減分に対して国から失業手当(削減された賃金の70~75%)が支払われた。また、一定期間が経過した後、従業員の勤務時間は削減前の長さに戻ることが保証されるという条件があった。
結果から言うと、この制度のお陰で事業の立て直しができた企業は少なく、大いに活用されたにもかかわらず、経済面から見ると効果は薄かったようだ。しかし、従業員側はそれによって解雇を免れ、生活の安定を得られたことから、それを評価する動きもある。
特に男性は仕事によって自尊心を維持する傾向が強いことから、完全に失業するより短時間でも勤務しているほうが精神的に好ましく、家事も積極的に行うという心理学的な調査結果も出ている。
実際、オランダの自殺者数は08年以降6年連続で増加しており、なかでも失業がきっかけで命を絶つ中年男性が増加傾向にある(CBS調査)。13年におけるオランダの短時間労働者に占める男性の割合は約28%(EU統計局)だ。不況でいつフルタイム正社員の職を失うかもしれないという現実の中で、男性にも短時間正社員という道が拓けていることは、社会全体として決して悪い選択肢ではないと思われる。