「競争の型」の変化に対応できていない
人員削減を成功させる第二の条件は、それが単なる「人減らし」ではなく、企業の戦略としっかり連動していることです。この点を明らかにしたのは、ハーバード大学ビジネス・スクールのニティン・ノーリアなどが、2005年に『ストラテジック・マネジメント・ジャーナル』に発表した研究です。
ノーリアたちは米大手企業100社の16年間の時系列データから、「人員削減を含む『企業のダウンサイジング』がその後の収益性にプラスの影響を与えるのは、それが、(1)組織構造の改革や、(2)主要事業の絞り込みなどの戦略変化と連動したときに限る」ことを明らかにしました。人員削減が単なる「人減らし」になった場合は、その後の収益性はむしろマイナスになるのです。
シャープの再建策にはカンパニー制の導入が含まれ、それは組織構造を変えるものですから、ノーリアがいう(1)はクリアしているかもしれません。他方、(2)への取り組みは不十分です。中期経営計画をみる限り、明確な競争戦略が打ち出されていません。
シャープは複数の事業で不振に苦しんでいますが、そのパターンは共通しています。すなわち、当初は「高い技術力で勝負する」として事業を始めたのに、いつのまにか競合他社との価格競争に陥り、消耗戦を強いられていることです。
主力である液晶事業は高い技術力を誇ってきたにもかかわらず、同じ日本企業のJDIと熾烈な価格競争を繰り広げてきました。今回の経営危機は、シャープが独占していた中国のスマートフォンメーカー「小米科技(シャオミ)」を、価格競争の結果、JDIに奪われたことが引き金になったと報じられています。
テレビ事業や太陽光発電事業も同様です。いずれも参入障壁が低くなり、商品の差別化が難しいため、他社との価格競争を強いられています。