漁港を集約して、安全な高台から通勤せよ

震災からはや4年(岩手県陸前高田市の奇跡の一本松、2015年3月撮影)。(写真=AFLO)

津波に襲われた被災地が今、どうなっているかといえば、瓦礫の山はなくなったが、多くが更地のままだ。

震災の1週間後に、私は「津波プレイン」という考え方を提起した。津波で水没する危険性がある低い土地は「津波プレイン」に指定する。「津波プレイン」に指定された土地に住居を構える人はオウンリスクであって、災害に遭っても原則救済しないし、家を建てるときに補助金なども出さない。一方で、国なり自治体は責任を持って安全な高台に新しい土地を用意する。「津波プレイン」に指定された土地を諦めた被災者には、保有していた資産に見合う家を高台の土地に無料で造ってあげればいいし、そこに家を建てたい被災者には補助金も出す。

このようにしていけば津波被害の危険性がきわめて高い「低い土地」の放棄は進んで、町単位、村単位でコミュニティを移転しやすくなる。

オーストラリアには「フラットプレイン」という仕組みがあって、洪水などで水没した地域は歴史的に把握できているから、該当する土地を販売する際には「洪水で水没する危険性がある」ことを明文化することが義務付けられている。「フラットプレイン」に指定された土地は当然価格が下がるが、万が一洪水に襲われたとしても、「危険を承知の上で購入した」ということで特段、補償を迫られない。

正しい情報開示を行って、リスクを承知した上での行動には自己責任を取ってもらう、というやり方なら行政の負担は大幅に軽減できる。日本でも「津波プレイン」同様のコンセプトで、「洪水プレイン」や「液状化プレイン」「山滑りプレイン」などの導入を検復興庁のデータ(2014年8月時点)によれば、被災した319漁港のうち、全機能が回復済みの漁港数は177で、一部機能が回復済みを含めた復旧の進捗率は95%。水揚げ量は被災前の7割程度まで回復、養殖施設や水産加工施設も8割方復旧している。

私は東北復興プランで、漁業関係者も高台に住居を移し、そこから漁港に通勤する生活スタイルにして漁港は集約すべし、と主張してきた。漁業関係者が漁港にへばりついて職住近接の生活をしてきたことが、津波被害を大きくした側面もある。漁港の集約については、震災以前から日本全国に2900もの漁港が必要なのかという問題提起をしてきた。日本には年間水揚げ高より港湾整備費のほうが高い漁港が2000以上ある。今や日本の魚介類消費量の半分は輸入魚。輸入魚は漁港ではなく、貨物港から入ってくる。養殖や栽培漁業の割合も増加していて、近海漁業の基地でしかない小さな漁港など2900も要らない。

漁港の機能は10分の1に集約して、高台の安全な場所から通勤するという発想で再建する。いざというときには避難できるように建物を4階建て以上にして、1階を市場にするなどして津波の通り道を建物の下部につくることが重要―。震災直後からこのような提言をしてきた。しかし、「元に戻す」という“復旧”優先の復興になっていて、漁港の集約は進んでいないし、無駄なハコモノ防潮堤(いくら高い防潮堤を造っても津波は回り込んでくる)の計画ばかりが目に付く。