仏教の中で、現代人に人気があるのは禅宗です。それは禅の教えがシンプルであることと関係しています。現代社会は情報や選択肢がきわめて多いので、かえって人はシンプルなものに惹かれるのです。迷える現代人に、禅はこんなアドバイスを与えてくれます。

『心配事の9割は起こらない』枡野俊明著/三笠書房

「器に入っている水は、見ているだけでは『冷たい』のか『暖かい』のかはわからない。(略)考えるより動くことが大事なのです」(『心配事の9割は起こらない』)

また、自分の考えや思いを伝えるコミュニケーションはビジネススキルとしても重要ですが、身につけるのは容易なことではありません。これに対しても禅はちゃんと回答を用意してくれています。

「愛語は愛心より起こる、愛心は慈心を種子とせり。愛語よく廻天の力あることを、学すべきなり」(『正法眼蔵』)。つまり、相手を慈しみ、その心で語ればいいというのが禅の教えなのです。

あれこれ複雑なことを言わず「それはこういうこと」「こうすればいい」と本質を指摘し、行動指針を与えてくれるところが、情報で頭がいっぱいになっている現代のビジネスパーソンに、うけているのだと思います。

「わかった気」だけでは不十分。すぐに行動に移せ

さて、みなさんがお坊さんの書いた本を読むようになったら、それでビジネスパーソンの悩みは晴れ、日本の未来は明るくなるのでしょうか。

残念ながら、それだけでは無理だと思います。いくら自分の抱えている問題を解決してくれるような言葉を本の中に見つけ、気持ちがすっきりしたとしても、そこで終わりでは何も変わりません。

大事なのは行動に移すこと。しかし、それには心の底から納得する「腹落ち」が必要です。頭でわかった気になったくらいでは、行動にはつながらないのです。

私はよく「『済んだことに愚痴を言う』『人を羨ましいと思う』『人に褒めてもらいたいと思う』、人生を無駄にしたいならこの3つをたくさんどうぞ」という言葉を口にして、自分を戒めるようにしています。それでも、ネットなどで会社に対する誹謗中傷の類いを目にすると、ついつい反論したくなります。それは、まだ先の戒めの言葉が腹落ちしきれていないからであって、それぐらい腹落ちというのは難しいのです。