過去100年の因習を今ここで断ち切りたい
「総務省との関係をよくしておいたほうがいいのでは」との助言を受けることもあります。これまで役所に呼ばれて官僚から怒鳴られることはあっても、役所に出向き机をたたいて官僚を怒鳴るという人は、いなかったでしょう。日本のあらゆる行政に対する姿勢というものは、常にそうした形がとられてきました。しかし、僕は、黙ってはいられなかった。過去100年続いてきた「もちつもたれつ」の関係をここで断ち切り、正義を貫きたいのです。
総務省のなかにも心ある人間は何人もいます。何度も議論を重ねるなかで、フェアだと思える部分もある。しかし今の日本には、「いいことはいい」「悪いことは悪い」という当然の正義を主張しづらい土壌があります。
天下りを受け入れたからといって、100%、癒着や談合が行われるわけではないでしょう。ただし天下りというのは、物事が疑われたりする温床になりうるような構造的な問題です。こういう構造が放置されたままで、いいはずがないのです。
東京大学経済学部教授 高橋伸夫氏が解説
当然、天下りを受け入れる必要はまったくない。ただし官僚出身というだけで、人材登用の可能性を閉ざしてしまうのは、マイナスになる恐れもある。官僚の能力を活かす再雇用は、企業活動を損なうものではないし、そうした実例は少なくない。たとえば、米AT&Tの大経営者として知られるセオドア・ヴェールは、米政府の官僚だった。たとえば天敵である総務省の好敵手を取り込むという手もあるのではないか。
●正解【B】――天下りを受け入れると、「当然の正義」を主張できなくなる
※本記事は2010年9月29日に開催された「ソフトバンクアカデミア」での孫正義氏の特別講演をもとに構成されております。設問文等で一部補筆・改変したものがあります。