熱意を引き出すための仕掛け
酒席における姿勢を示す、稲盛氏のこんな言葉がある。「ただ面白おかしく、ただ酒をくらって己を忘れてしまうような、酒に飲まれるような酒は『下の下』です」というものだ。
その意を汲んだ京セラのコンパは、あくまでも仕事色が強い。目立たない下支えの業務の担当者にも目を配る機会となる。「会社にはメジャーな仕事とサブメジャーな仕事がある。どんな仕事であれ、その仕事でのキーパーソンをねらえ」と激励するという。
コンパを決起集会の場に使うことも多い。若手から順に「私はこの役割で、必ず目標を達成します」といった決意をメンバーの前で発表させる。
上司と部下の関係も、1980年代を思わせる濃密さだ。松下氏はこんな体験を明かす。
「若手社員を叱る場に使うこともあります。『オマエと同期の人間はここまでやっとるぞ。そんな取り組みでいいんか。もっと頑張れや』と。当社では少数ですが、そういう社員は仕事へのやりがいを感じず、目標設定も甘い。コンパの場を利用してガツンと言います」
こうして叱った効果はどうなのか。「正直言って5人に1人は変わらないですね。でも、あとの4人は心を入れ替えて、仕事への取り組みに変化が表れてきます」。
時にはフォローアップも行う。
「あのときの決意表明で話したこと、その後どうなっとるんや」と仕向けると、向こうから経過報告してくれることもあるとか。
稲盛氏のフィロソフィの中に「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」という言葉がある。能力は先天的な面もあるが、熱意は自分の意思によって引き上げられる。考え方は、生きる姿勢によってマイナス100点からプラス100点まで差が開く――と示す。
京セラにおける「コンパ」とは、アメーバ経営と同じように、社員の「考え方」をプラスの方向に向かわせて、「熱意」を引き出す役割のようだ。
企業現場では、よく「全社一丸」という言葉を使うが、昔から日本では「同じ釜の飯を食った仲」という関係も重視する。この絆が、アメーバ経営を側面から支えているようだ。