本質を見極めることの大切さ

「眼で聞いて耳で見ろ(眼聴耳視)」というユニークな言葉がある。われわれは眼と耳で世の中の動きをとらえているが、ついつい惑わされてしまう。人と話をするとき、目で見た表情や耳で聞いた声だけで判断するのではなく、本質を知るためには相手の心を察知せよということだ。これができると、物事を正しく認識し、真のコミュニケーションが可能だ。だから私は、社内外の人たちと接する際はいつも、このことを心がけてきた。

そしてこの方法は、私のもうひとつの行動規範である人事の公平性を保つことにも役立った。というのも、私は仕事に関しては非常に厳しく社員に接している。そのことは同時に、誰に対しても公平でなければならないことを意味する。会長みずからはライン業務には携わらないから、自分が「彼こそ」と信じた人物に仕事を託す。そのときに、自分の目を曇らせないためにも、本質を見極めることは大切である。それによってこそ、適材適所の人材登用が可能になる。

振り返ってみると、会長になってから自分自身にも厳しくなったという気がする。周囲は迷惑だったかもしれないが、出社時間は今までで最も早い。勤務時間中の集中力も明らかに高まった。やるべきことは速やかに処理してきたつもりだ。そして、何より社外の動静にも敏感になった。石油業界や上場会社の会長の発言や行動から学んでいこうとしたものである。

その意味で「ポスト(地位)が人をつくる」というのは本当だ。確かに、組織の部門長やトップには実力があるから選ばれるわけだが、その役割を担い、結果を出すことによって力量がさらに増し、リーダーシップも人格も磨かれていくのも間違いない。私自身、それがどこまでできたか、確たる自信はないが、みずから課した規律からはぶれないで職務に尽くしたと思っている。

香藤繁常(かとう・しげや)
1947年、広島県生まれ。県立広島観音高校、中央大学法学部卒。70年シェル石油(現昭和シェル石油)入社。2001年取締役。常務、専務を経て、06年代表取締役副会長。09年会長。13年3月よりグループCEO兼務。
(岡村繁雄=構成)
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