国際――新興国の実情を知る素地を養う

■インド人の発想の背景とは

『ヒンドゥー・ナショナリズム』
  中島岳志/中公新書ラクレ

気鋭のインド研究者が、有力政党BJPの母体であるRSS(民族奉仕団)への取材を通じて現代インドを描写する。RSSは経済成長の中で人心の荒廃を憂う人々の受け皿となる一方、彼らを視野の狭いナショナリズムに誘導していると指摘。インドで起きている事件やインドの人々の発想の、背景に踏み込むための知識を与えてくれる好著である。2002年刊。

■今も残る南北対立

『ヴェトナム新時代』
  坪井善明/岩波新書

ヴェトナム戦争の勝者は、経済的には立ち遅れた北部のほうだった。この南北対立は今も同国の政治経済に深く影響している。著者は現在のヴェトナム経済の諸問題や、ヴェトナムにおける日本の印象、両国の経済関係などに触れつつ、今日の同国の問題の源流となっているヴェトナム戦争やカンボジア紛争の過程についてわかりやすく記述している。2008年刊。

■特異な体制を冷静に分析

『中国経済のジレンマ』
  関 志雄/ちくま新書

中国経済を理解するには、社会主義にして市場主義という特異な国家体制を把握することが前提となる。このテーマでは日本でも数多くの本が出版されているが、中国脅威論など感情的な切り口のものが多い。本書は香港出身で日本留学の経験を持つエコノミストが、社会主義国であった中国に市場主義が導入されていった過程を中立的な立場から分析したものであり信頼できる。2005年刊。

■南ア元駐在員が語る真実

『日本人のためのアフリカ入門』
  白戸圭一/ちくま新書

著者は新聞社の元南ア駐在員。アフリカで発展しつつあるエネルギー産業や物流ビジネスに着目し、日本人がアフリカについて抱きがちな思い込みを打破する。2011年刊。南北問題に取り組んできた著者による『新・現代アフリカ入門』(勝俣誠、岩波新書)も良書だ。アフリカでも経済発展や民主化が進んでいるが、依然過去の歴史の延長にあり楽観視できないと指摘する。2013年刊。

(久保田正志=構成 的野弘路=撮影)
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