トラブルに遭うのは観光客のほうが多い

はじめて新興国に赴任すると聞いて不安に駆られる家族の気持ちはよくわかります。私が日商岩井(現・双日)に入社した1976年当時も、東南アジア諸国などではテロがあり、反日暴動が起きていました。そんななか私は、20年間、アジア、中近東、アフリカ、東欧向けの機械やプラントなどの営業を担当し、85年からはインドネシアのジャカルタ、その後はスリランカのコロンボにそれぞれ4年間ずつ駐在しました。帰国後は広報室で、ペルー人質事件や9.11テロなどでの危機管理にもあたりました。

忘れられない言葉があります。Low Profile――目立たない行動を心がけるように。ジャカルタへの赴任前に研修で教えられました。駐在員と家族は、現地スタッフや運転手のほか、ハウスキーパーや近隣住人、買い物先の店員など、多くの人たちと接します。付き合いには適度な距離感が必要です。横柄な態度をとれば反感を買いますし、友達のような関係ではトラブルを招きます。

いまも新興国では「日本人は金持ち」というイメージがあります。駐在員は立場をわきまえ、目立つ行動は控え、あらゆるルートで現地の情報を集めることです。自分の頭で考え行動すれば、ほとんどのトラブルは避けられます。だから長期滞在の駐在員より、短期滞在の観光客のほうが、トラブルに遭いがちです。駐在員が犯罪やテロに巻き込まれるのはあくまで例外的なものです。