間接的に学んだことは数知れず
若手や中堅時代は「経営方針会」など大きな会議で話は聞きましたが、直接指示された記憶はない。「アメーバ経営」や「フィロソフィ」を通じて、自ら身につけていったのです。
私は入社後に鹿児島県の川内工場に配属され、入社2カ月で「アメーバリーダー」に任命されました。資材の発注、納期の管理、経費項目の按分、他部署との調整なども任されましたが、若造の言うことなど誰も聞いてくれません。
どうやったら人に動いてもらえるか――。自問自答しながら、他者との接し方を学びました。比較対象がない中で、ごく素直に“京セラ流”を吸収していったのです。
といっても、まだ学生気分が残っていますから、正直いって「これは無理だなあ」と尻込みしたくなるようなフィロソフィの項目もありました。しかし30代後半になると、しっくりくるようになりました。「あ、これもそうやな」と、徐々に納得できるようになったのです。
直接の指導は受けていませんが、稲盛から間接的に学んだことは数えきれません。たとえば「高い目標を持つ」ということ。
私は入社2年目の後半から機械工具の部署に移り、生産管理を担当しました。
当時、この業界は財閥系の名門企業が市場を握っていて、あとは小規模メーカーと海外メーカーでした。当時社長だった稲盛は「世界一の工具メーカーになるんや!」と、繰り返し叱咤激励していました。
ベンチャーである我々が、伝統ある財閥系に立ち向かうという構図です。燃えましたね。「ひと泡吹かせてやろう」という気持ちでした。結果、国内シェアの10%近くを占める業界トップクラスに育ったのですが、これも稲盛が最初に高い目標を掲げたからだと思います。