高倉健として映画のなかに存在できる俳優

だが、『地下室のメロディー』は面白かった。風格のあるボスというのがジャン・ギャバンの役とごろである。ジャン・ギャバンは生涯最後の仕事にカジノの地下金庫から10億フランを強奪する計画を立てる。アラン・ドロンは若いギャングの役だ。一味は地下金庫を襲撃し、うまく札束をバッグに入れるまでは成功した。犯行がばれないようにアラン・ドロンが、プールの底にバッグを隠したのはいいものの…。ラストはDVDかブルーレイで見た方がいい。

確かに、この時、サングラスをかけたジャン・ギャバンは動揺していない。なかなかできない演技である。

ただ、高倉健はジャン・ギャバンを真似して、セリフや動作がなくても、感情を表現できる役者になった。東映を辞めてからの彼は表情だけの演技ができるように、努力したのだろう。

『鉄道員 ぼっぼや』をはじめ、高倉健との仕事が多い降旗康男監督はこう語っている。

「健さんは役を演じなくても高倉健として映画のなかに存在できる俳優です。稀有な俳優なんです。

ジャン・ギャバンがちょうどそうですよ。どんな役をやっていても、見ているほうはジャン・ギャバンとしか思っていない。

クラーク・ゲーブルやゲーリー・クーパーは一生懸命にその役を演じていたという感じがするけれども、ジャン・ギャバンはとにかくジャン・ギャバン本人。

ロバート・デニーロやビートたけしもそうです。役よりも本人のキャラクターの方が際立っています」

高倉健が好きな俳優の筆頭はジャン・ギャバンだ。そして、本人は追いつくために真似をしているうちにそのキャラクターを受け継いでしまったのだろう。(文中敬称略)

(山川雅生=撮影)
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