「イランは映画の製作が盛んな国なんだ」

高倉健から「イランの映画はいいよ。見たことある?」と聞かれたことがあった。

「いいえ、ありません」と答えたら、「ははあ、やっぱり」と言われた。

「一度は見た方がいい。イランは映画の製作が盛んな国なんだ」

どうしてそれほどイランに関心があるのだろうと長くわからなかったが、彼の出演作をあらためて見直していたら、やっと理由がわかった。イランで撮影したある映画に彼は出演していたのである。

『ゴルゴ13』

1973年に公開された東映作品だ。撮影はすべてイランのテヘランもしくはイスファハン。出演者は高倉健以外は全員、イラン人だ。映画を見ていると、少なくとも2カ月はロケをしなくてはならなかっただろう。その間、スタッフは別として、日本人出演者は高倉健ひとり。たったひとりでよくイランまで出かけて行ったなというのが正直な感想である。

見る前、わたしは「キワモノ映画だろう」と思っていた。ところが、見ているうちに「悪くないぞ」と早送りできなくなった。

意外に、よくできた映画なのである。1973年と言えばホメイニ師のイラン革命(1979年)前である。出てくる人々は酒は飲むし、ヘジャブも被っていない。ベッドシーンだって出てくる。当時のイランは西洋諸国と同じくらい、なんでも自由だったことがわかる。

また、アクションシーンは派手だ。イランが国を挙げて協力していたようで、ヘリコプターは飛ばすわ、車は爆発させるわと日本よりもはるかに激しい。むろん、出てくるのも同国の最高の俳優たちである。

イラン人俳優のセリフはすべて日本の声優が吹き替えている。違和感はあるけれど、自宅で吹き替えのテレビ映画を見ていると思えばいい。

それよりも何よりも、現場で高倉健は戸惑ったに違いない。自分以外の出演者が全員、ペルシャ語をしゃべっていたわけなのだから。