SNS依存で営業企画力も減退

フロー経営の要諦である、社員の自由度を高めるうえで、企業の基礎研究の充実も大切だとシステム・インテグレーション社長の多喜義彦氏は語る。

「基礎研究的な開発に投資できない企業が増え、研究したとしても、薄っぺらになりがち。よって、短期的な成果をあげる必要のない長期的スパンで研究に打ち込める、ある意味“浮世離れ”した環境のほうが、じっくりと研究に打ち込み深く耕すことができるはず」

嶋浩一郎 クリエーティブ・ディレクター

ところで、アイデア力不足なのは技術畑だけではない。博報堂ケトルのクリエーティブ・ディレクター、嶋浩一郎氏は、昨今、営業企画やマーケティング部門などにおけるネット・SNS依存が発想の「壁」になることがあると話す。

「例えば、新しい商品をつくるために、SNSなどを使って一般ユーザーのニーズを調べるためアンケートをとることがあります。そのこと自体は何も問題ありません。短時間で多くの人の声を収集できるメリットがあります。ただその半面、落とし穴もあります。一般の人から寄せられるアンケートの回答は、すでにある商品やサービスに関することがほとんど。顕在化したものしか出てきません。企画・調査する側の狙いはまだ世の中では言語化されていないけれど、ユーザーが潜在的に欲しいモノ&サービスを何とかつきとめたいということ。ネットの情報だけでは、ジャンプ力のある発想をするのは難しいのです」

人々の欲望の言語化を先回りすることこそが企画者の腕の見せどころだという嶋氏。聞けば、お手本にすべきだというのが「名古屋人の発想」だ。

名古屋といえば小倉トースト、ヴィレッジヴァンガード(雑貨と書店の融合)など、「ありえない」組み合わせで新規の商品やビジネスモデルを数多く生み出してきた土地だ。

「真逆のものを順列組み合わせしたり、逆張りしたりすると“化ける”瞬間があります。ネットの検索は、その物事を深く知ることができますが、新発想にダイレクトにつながらないのです」

ネットやSNSの“束縛”を超えて自由な発想をできないのは、日本人がとかくランキングやクチコミなど「他人の意見や尺度」に影響されすぎる傾向があるからかもしれない、と嶋氏は言う。

理系・文系業種とも苦戦中だが、取材した4氏は「才能が埋もれているだけ、それをいかに経営層が見出すかにかかっている」と口を揃えたのだった。

多くの産業界に関わった伊藤慎介氏はこう語る。

「20年の東京五輪は日本の発想力を発揮する絶好の機会です。高齢者や軽度の障害者なども乗ることができる超小型モビリティの車いすなど、有能なベンチャーたちの発想がいま、形になりつつあるのです」

天外伺朗 元ソニー上席常務
本名、土井利忠。工学博士。1964年、東京工業大学卒業後、ソニー入社。CD、犬型ロボット「AIBO」を開発。人間性を最重要視した企業経営論を樹立。経営塾「天外塾」主宰。
多喜義彦 開発の達人
システム・インテグレーション社長。全国の顧問先企業に対し、新事業・新商品開発の提案、知財戦略立案などをしている。著書に『価格競争なきものづくり』など多数。
嶋浩一郎 クリエーティブ・ディレクター
博報堂ケトル代表取締役社長・共同CEO。93年、博報堂入社。06年より現職。カルチャー誌などの編集長や、本屋大賞実行委員会理事などメディアコンテンツに関わる。
伊藤慎介 元経済産業省官僚
京都大学大学院修了後、通商産業省(現経済産業省)に入省。車、エレクトロニクス、IT業界などに精通。国が95%出資の産業革新機構に出向後、同省を退官。今夏、独立。
(市来朋久、堀隆弘=撮影)
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