「ダブル・アイリッシュ、ダッチ・サンドウィッチ」はグローバル企業のタックスマネジメントの手法としてはもはや常識だ。行き過ぎた節税、租税回避の温床、という批判を受けて、先般、アイルランドは「ダブル・アイリッシュ」の仕組みが使えなくなるように税制改正を決めたほどだ。

しかし、理不尽な国家の規制、理不尽な税金からいかに逃れるかが、ここ数十年の企業戦略論の中心的なテーマであったことは間違いない。多国籍企業であれば各国の税率や法制度などをインプットした最適化プログラムを持っていて、どこの市場でどんなオペレーションをすればトータルで税金が一番安くなるかを常に計算している。

逆に国から見れば、国民や企業から取り立てた税金は国家経営の原資だ。しかし、国民国家の盟主であるはずのアメリカは自国の優良企業からまともに税金を徴収できない悲惨な状況に陥っている。

米上院の公聴会に呼ばれたアップルCEOのティム・クックは税金逃れとの指摘に対して「どこの国でも法律と納税義務を順守している」と否定し、「税負担が重過ぎるアメリカの税制こそ変えるべきだ」と平然と言ってのけた。

国境というボーダーの中で、国家が税金を取って行政サービスを提供するという仕組みが、アメリカでは成り立たなくなっている。予算が足りないから、手下の日本やオーストラリアに国防の出前を押し付けるのである。

国家運営の原資をどうするか、世界的な規模で組み直さなければアメリカのような国はやっていけなくなるだろう。「国家とは何か?」という問い掛けが込められているという点では、イスラム国よりもグローバル企業の巧妙なタックスマネジメントのほうが各国の為政者にとって深刻で悩ましい脅威なのだ。

(小川 剛=構成 AFLO=写真)
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