新しい経営学はこうして生まれる
セッション全体を通して印象的だったのは、CO2排出、資源やエネルギー、水などの消費、企業の社会的なパフォーマンス、労働者の権利など、多くの要素が複雑に絡み合うサスティナビリティの具体的な価値を数字で表すためのルール作りに欧州が動き始めているということ。また、その構想が欧州らしく、理想主義が先に立ったものであることだ。
現時点では、スコアが良かった企業の決算の分析を基にした“後講釈”のレベルを越えるものではない。サプライチェーンひとつとっても、サスティナビリティのスコアが良い部品メーカーと、労働者を劣悪な環境で働かせながら低価格で製品を作る部品メーカーのどちらが競争力があるか、答えは出ていない。が、ステークホルダーからのニーズが出ている以上、この新しい経営学が成熟していけば、一定の支持を得るであろうことは想像に難くない。
世界の中で日本はたびたび、デファクトスタンダード(事実上の標準化)戦略で後れを取ってきた。そのこともあって、経済産業省や日本企業は、技術革新によって市場のトレンドをリードすることで、次世代のデファクトスタンダードを取ろうという機運が強い。それに対して欧州は、政府やユーザーを巻き込み、サス ティナブルが企業の価値やパワーを表すという指標を作ることで、投資判断のデファクトスタンダードを作るという思わぬ戦術に打って出ているという格好だ。
日本的な価値観で判断すれば、まるで雲をつかむような具体性のない話である。が、「雇用を増やすことは消費者を増やすこと。マーケットの活性化はもちろんサスティナブルの重要なファクターだ」(ポラーニョ会長)といったソーシャルな部分にまで踏み込んだ欧州流サスティナブルの思想は、目前の利益を求めて右往左往するのに比べてより高度なもので あることは間違いない。
欧州のトライアルが実を結ぶかどうか、現時点ではまだわからないが、日本企業はサスティナブルに関する欧州陣営の動向に留意し、何らかの動きが見えたときにすぐさま影響力を行使する準備を進めておくことも重要であろう。