苦境の時こそ「理念に向き合い、易きに流されない」

現執行役の1人は、会社人生でもっとも苦しかったこととして、カメラ事業の撤退を検討していた時のことを振り返る。

「水面下で事業売却交渉を進めつつ社内では表向き何事もないように振舞わなければなりませんでした。部下が新しい提案を持ってきても進めることもできない。本当の理由は言えないので、歯切れの悪い返事をしてお茶を濁すしかない。一緒に働いているメンバーたちを裏切っているようで申し訳ない気持ちで一杯でした」

そして、そんな苦境の中だからこそ理念に向き合い、仕事の意味を考えたのだという。

「若い頃は理念なんて考えたことはありませんでした。「いいモノをつくりたい」「ライバル会社にできるなら自分たちにできないはずはない」といった負けん気が仕事の原動力だった気がします。でも立場が上がり自分だけで背負いきれないような責任を自覚するようになって「何のために働いているのか」と深く考えるようになったのです。カメラ事業売却の際には、会社が変わっても事業を継続する道を選ぶことで、我々のカメラをこよなく愛してくれたファンのためになると信じて乗り切りました」

この役員が、その当時の厳しい局面でも逃げることなく一歩踏み出せたのは、知らず知らずの内に自分が先輩たちから受け継いできたDNAのようなものだという。

「若い頃から大きな仕事を任され、経営陣と一緒に仕事をさせてもらう機会が多かったんです。「とりあえず今は何とかなる」と先延ばしすることなく「どうにもならなくなってからでは遅い」と決断する場面を目の当たりにしたことが何度もありました。易きに流されることなく、より高みを目指そうという意識を持った先輩たちの薫陶を受けている内にリーダーとして自覚と志が育まれたように思います」

このようなDNAこそが“コニカミノルタらしさ”なのであろう。こうして統合会社の中で見失いかけたアイデンティティを再構築してきたコニカミノルタ。新たにトップに就いた山名が掲げる「DNAの進化」は、さらにその先をめざすものだ。次回は山名新社長に、新フィロソフィーの浸透についての考えを聞いてみたい。

竹内秀太郎(たけうち・しゅうたろう)●グロービス経営大学院主席研究員。東京都出身。一橋大学社会学部卒業。London Business School ADP修了。外資系石油会社にて、人事部、財務部、経営企画部等で、経営管理業務を幅広く経験。日本経済研究センターにて、世界経済長期予測プロジェクトに参画。グロービスでは、人材開発・組織変革コンサルタント、部門経営管理統括リーダーを経て、現在ファカルティ本部で研究、教育活動に従事。リーダーシップ領域の講師として、年間のべ1000名超のビジネスリーダーとのセッションに関与している。Center for Creative Leadership認定360 Feedback Facilitator。共著書に『MBA人材マネジメント』『新版グロービスMBAリーダーシップ』(ダイヤモンド社)がある。
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