日本の鉄道が持つトータルシステムのポテンシャル

日本の私鉄も世界に例がない。主要駅から郊外に延びた沿線を開発し、住宅を売って、駅ごとに商業施設を置いて街づくりをしてきた。鉄道事業というよりトータルコミュニティサービスである。おかげで通勤可能な中流社会のコミュニティが50キロメートル圏の外側まで広がった。

世界の大都市はいずれもスラム化という課題を抱えているが、私鉄沿線に人口が分散したせいで日本では都市がスラム化しなかった。

私鉄はそれぞれにコミュニティカードを発行し、JRと相互乗り入れし、カードも共通化した今ではコミュニティの通貨になっている。「O2O(オンライン・ツー・オフライン、オフライン・ツー・オンライン)」というが、イーコマースと結びついて決済がポイント化され、さまざまな商品、サービスがポイント交換で購入できるわけだ。

JRや私鉄のこうしたトータルシステムは日本独自のもので国内実績もあるし、非常に輸出ポテンシャルは高い。コモディティ化(差別化特性が失われること)していく運命の家電製品などに代わって、日本の強い輸出産業になる可能性を秘めている。

とはいえ、残念ながら、日本の鉄道システムをトータルで海外に売り込める会社がない。車輛は車輛メーカー、レールは鉄鋼会社、信号装置は産業機器メーカー、自動制御装置や運行管理システムは電機メーカー、運行・保守は鉄道事業者といった具合に、暖簾がそれぞれ分かれている。「Suica」や「PASMO」などのIC乗車カードの技術はソニーの「FeliCa」(非接触型のICカード技術)がもたらしたものだ。

世界の鉄道メジャーは車輛のみならず、線路、信号、運行管理システムなどを内製あるいは調達して、フルセットで一括提供している。納入後の運行管理やメンテナンスまで請け負っているのだ。

インフラシステムの輸出という意味では、商社が鉄道システムを統合する役割を担ってもよさそうだが、この分野のパッケージ力はまだまだ弱い。日立製作所など鉄道システム事業を行っているメーカーもあるが、やはりハードを売り込みたい意識が強く、総合力は世界の鉄道メジャーに遠く及ばない。