孫さんのオフィスを訪ねたとき、たまたま私の弟子が一緒にいた。孫さんに、「こいつ、東京藝術大学に4浪して入って、今は売れない画家をしているんです」と言うと、孫さんは目を輝かせて、「売れない画家になるのが、僕の夢なんです!」とおっしゃった。
孫さんにそんな夢があったとは意外だが、いずれにせよ、私の弟子は、天下の孫正義さんの「夢」を、もうすでに実現してしまっていることになった。何しろ、売れない画家なのだから!
そんなことを言うと、孫正義さんは大声で笑われた。その表情が、素敵だった。
もちろんあくまでも冗談であるが、そのようなユーモアのセンスを持っているところが、孫正義さんの成功の秘密の一つなのではないかと思う。
人間の脳は不思議なもので、がんばれる人は、言わなくても自然に努力する。一方、ガンバレ! といくら言われても、どうしても体が動かないということもある。
集中して時を忘れる「フロー」の状態では、がんばっていることは実は嬉しいこと、楽なことである。がんばるということは、決して無理をするということではない。
お目にかかったとき、孫さんは、「人工知能に興味がある」とおっしゃっていたが、言葉通り、感情を理解するロボットを発表するなど、着実に事業を進めていらっしゃる。
孫さんががんばれる秘密は、あれほど成功しても、「夢は売れない画家なんです」と言う、そのバランス感覚にあるのではないかと思う。
どんなに忙しい日常でも、心のどこかに「南の島」がある。そんな心のバランスが、がんばれる人をつくるのだ。