今年からブラジルで「一番搾り」を「ICHIBAN」として製造販売している。
「ブラウマイスターの資格を持っている人間がごろごろいて、想定以上にこちらの技術者の質が高かった。製造に入る前に、日本本社のテストに3度合格しなければならないんです。それが彼らの技術者魂に火をつけたようで、すんなり合格しました。手前味噌かもしれませんが、海外で飲む『一番搾り』の中で、うちのが一番おいしいと思いますよ」
飲料会社――特に日本のビールメーカーは4社の寡占状態で、激しい競争関係にあるせいか、自社製品に対する愛情は凄まじい。
日本にいるときから、小林一家が出かけるのは、自社ビールが置いてある店だった。ブラジルでもあらかじめそうした店を事前に選ぶ。しかし、清涼飲料水や水については、ブラジルキリンの商品を置いていないこともある。
小林はテーブルにつくと、店員に自社製品があるかどうか訊ねる。他社の銘柄ならあると言われた場合は、「いらない」と断る。子どもたちは食事の間、飲み物を我慢することになる。
「ないのが分かっていても訊ねるんです。何度かそういうやりとりがあって、そこのオーナーがうちの商品を入れようと思うかもしれない。何年後でもいい、それを待っているんです。1本を売るために苦労している営業のことを思うと、喉がからからでも他のメーカーのは飲めませんね」
もちろん、こうした自社製品への愛着は、ブラジル人の同僚からは理解されない。日本でさえも古い考えとされるかもしれない。ただ、自分の行動に何かを感じてくれるブラジル人がいれば嬉しいとも思う。
ブラジルキリンが立ち向かう相手は巨大だ。ベルギーの世界最大のビールメーカー「インベブ」の子会社、「アンベブ」は、ラテンアメリカ最大のビールメーカーであり、自社ブランドの「ブラーマ」の他、「バドワイザー」などを扱い、国内売り上げの約70パーセントを占めている。
「厳しいのは分かっています。しかしブラジルは広く、飽和状態の日本と違って、空白の市場が沢山ある。まだまだチャンスがある」
・「どぶ板営業」で飲食店に浸透中
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・アメリカに次ぐ世界3位のビール大国