そもそも国が決める容積率に何か根拠があるのかといえば、国土交通省のさじ加減一つである。たとえば大阪・中之島に朝日新聞社が高さ200メートルの大阪本社ビル(中之島フェスティバルタワー)を建設した。この地域の容積率は1400%だが、国土交通省は朝日の要望通り、1600%という容積率を認めた。専門家が安全性を厳正に審査してOKを出したのではない。つまりは国土交通省の“お目こぼし”だ。
アベノミクスの成長戦略で首都高速道路の空中権(容積率を隣接した土地に移転する権利)を売却して、老朽化した首都高の改修費に充てようという構想もある。銀座辺りを走っている首都高は半地下構造になっているから、そこで使われていない地上部分を隣接地に売却する、という信じられない発想である。それで隣接地が大きな容積率の建物を建てられるということは、別に売却されなくても、その土地の容積率の制限を単に撤廃すればいいだけの話だ。容積率にどれだけ根拠がないか、わかろうというものだ。
JR山手線の品川―田町間にある操車場跡地の一部が外資系企業の誘致を図る「国際戦略総合特区」に指定されて、容積率を大幅に緩和しようという話も出ている。しかし、あのエリアだけ地盤が固いとか、特別な理由があるわけでもない。つまりは特区に指定しただけで変えられるような、根拠のない数字なのだ。
本来、容積率は安全性を基準に決めるべきものだと私は考える。安全性は時代とともに変化する。頑丈な素材が開発され、優れた工法や耐震技術が生み出されれば、安全の基準も変わってしかるべきだろう。地域差もある。この地域、この場所だったら、どういう工法や技術を使えば安全に建てられるのか、信頼できる専門家に判断してもらって、それを基準にそれぞれの自治体が決めたほうが、安全性に適った容積率になるはずだ。