カリブ海の国・ジャマイカの人口は294.8万人(2019年)だ。その小国が東京オリンピック・陸上女子100メートルでは表彰台を独占した。また「人類最速の男」ウサイン・ボルト氏の出身地でもある。なぜジャマイカは陸上競技で強いのか。そこには意外な理由があった――。

※本稿は、Dr.マンディープ・ライ『世界を知る101の言葉』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

ジャマイカの国旗
写真=iStock.com/Henfaes
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老女性に席を譲らなかった若者への容赦なさ

ジャマイカについて考えると、リラックスして、のんびりして、のんき、という言葉が浮かぶでしょうか。たとえば、オリンピックで大活躍したウサイン・ボルト選手は、それを強く印象づけました。でも、広く知られているこのイメージは、この島の本当の国民性とは相容れません。

じつはジャマイカでは、「規律正しさ」こそが一般的な価値観であり、ライスや豆や雨季と同様に、生活の一部なのです。

私が思い出すのは、首都キングストンでバスに乗っていたときのことです。

年配の女性がバスに乗ってきましたが、空席がなく、座ったままの若い男性のほうに視線が集まり始めました。最初は振り返ったり、眉を釣り上げたり、というジェスチャー。それで望みの効果が出なかったので、誰かが青年に声をかけました。

「ねえ、君は立つべきじゃないか?」

青年はようやく立ち上がりましたが、その際に「はいはい、わかりましたよ」とつぶやきました。普通なら、これで話は終わると思うでしょう。でも、バスの中は落ち着かず、ある女性がさらに深追いをしました。