6月に取締役に就任し、鉄道事業本部の副本部長兼サービス部長兼営業部長となった直後の2003年夏、「新・感・動・作戦」と名付けたサービス向上運動を始めた。サービスについてのお客の声を、全社から集めるシステムを構築。「対応できる」と判断したら2週間以内に行動に移し、「対応できない」ということには、理由をていねいに書いた返事を2週間以内に出す。ここでも「手間をかけよう」と呼びかけた。
「あいさつ運動」や「ありがとう運動」も、展開する。最初に外食会社の社長になったとき、ホテルを借りて、元鉄道員たちに「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」の挨拶とお辞儀の研修をした。その流れが、続く。外食事業で得た経験や教訓は、すべて鉄道でも活きる、と思った。
かつて国鉄が、何であれだけ悪口を言われたかを考えると、「お客さま本位」「サービス第一」という発想が足りなかったことに尽きる。民営化後も、そこが大きな課題だった。「あいさつ運動」では、意欲的な駅長の表彰制度をつくり、「ありがとう運動」では、好評なところに「ありがとうカード」を贈る。そうやって、全社への浸透を図る。
手間をかけ、目標に向かって実績を重ねていく企業文化が、2年後、危機を克服する。その年、重大な事故やミスが3件も続いた。社長が「安全について、もっと本気で考えろ」と声を大にし、「新・感・動・作戦」の手法を安全の世界にも取り入れることにした。こちらは、お客の声ではなく、社員の「ヒヤリハット体験」の募集だ。要は「ひやり」「はっ」とした事例を集め、その情報を共有化し、改善策を打っていく。自ら安全を創り出そうとの趣旨で、「安全創造運動」と命名する。
「伏久者飛必高」(伏すこと久しき者は飛ぶとき必ず高し)――低い姿勢で長く力を蓄えた人ほど、ひとたび飛び立てば必ず高く舞い上がるとの意味で、中国・明の洪自誠の書『菜根譚』にある言葉。焦らずに力を蓄えていくことの大切さを説き、「サービス」や「安全」についてじっくりと集積していく唐池流と重なる。