お客の声を集めひとつずつに対応
赤字でも、「地方の足」としての高い公共性ゆえに、事業の継続が望まれる地域の鉄道。経営基盤が強いJRの「本州三社」なら、それも受け止めやすいが、収益力が低かった九州、四国、北海道の「三島会社」には厳しい。
だから、外食や不動産など、鉄道以外の分野への事業展開を進めた。いま、JR九州のそれらの収入の合計は、鉄道事業を上回る。唐池流に、一つ、一つ、「手づくり」を重ねてきた成果だ。
1990年代の終わり、西鹿児島駅(現・鹿児島中央駅)にあった直営カレー店の売り上げが、3年で半減した。2000年6月、運営するJR九州フードサービスの社長に47歳で再登板すると、すぐに「鉄板復活」の指示を出す。
店の人気は、何種類にも及ぶスパイスを、すべて自前で配合し、鉄板で炒め、カレーの味を磨いた点にあった。ゆっくり食べる時間がなくても、味さえしっかりしていれば、リピーターになってくれる。1度目の社長のときに決めた路線だ。ところが、本社へ戻った後、後任の社長がレトルトカレーに変えてしまう。外食事業全体の赤字化に動揺し、コスト引き下げを優先し、人手を省くためだ。
味の深みが全く違うことは、ひと口食べれば、わかる。手間のかけ方が大きく違うことも、見抜かれる。再び社長になり、以前に使っていた鉄板など一式を運ばせ、「手づくりの味」へ戻すと、売り上げはすぐに5割増えた。でも、半減していたから、元の75%程度で、回復しきれない。
いったん落ちた評価は、簡単には戻せない。「そういうものだ」と痛感した。評価を持続させるには、やはり、手間をかけないといけない。お客は、その手間にこそ価値を認めてくれる。以来、どの仕事に就いても、「手間こそ、お客さまに感動を生む」と言い続けた。そうやって蓄えてきた力が、豪華寝台列車「ななつ星」の誕生や運営にも、つながっていく。